<ヤクルト10-4阪神>◇26日◇神宮

 阪神野原将志内野手(24)は少しだけ、はにかんだ。「やっとプロ野球選手としてスタートを切れました」。3点差に迫った6回2死一塁、赤川の低めシンカーを巧みにミートした。左翼芝生にボールが弾んだ瞬間を忘れることはないだろう。06年高卒ドラフト1巡目。鳴り物入りで入団し、苦節6年目でプロ初安打を記録した。

 「1本出て正直、ホッとしています。同級生が活躍している中、ふがいない気持ちがあった。必死にバットを振ってきて良かった」

 楽天田中に広島前田健、巨人坂本に日本ハム斎藤…。同い年の若武者たちはすでに球界を代表する選手に変身した。一方の野原は大砲候補と期待されながら、苦難の過程で中距離打者として生きる道を選んだ。前日25日に今季初めて1軍登録され、この日6番一塁でプロ初先発。痛烈なライナーで生きざまを示した。

 1度だけ野球をやめようとした。中学3年時、当時高校3年生の兄大輔さんは大学進学を控えていた。弟は両親の負担を考えた。「兄ちゃんが大学に行くし、自分が私立の学校で野球するわけにはいかん、と思って」。何度も家族会議が開かれた。もうやめよう-。諦めもついた9月、兄は突然長崎から上京し、就職を決めた。「『オレは働くから、オマエは長崎日大で野球しろ』って。僕のために…。本当に感謝しています」。家族のため、野球で花を咲かせる義務がある。

 手にした記念球は長崎の実家に持ち帰る。「これからは勝利に貢献できるようになりたい」。期待されたより遅めのスタート。もちろん、感慨にふけっている暇はない。【佐井陽介】

 ◆野原将志(のはら・まさし)1988年(昭63)4月4日、長崎県生まれ。有家小1年から有家中央ソフトボールクラブに入る。有家中では軟式野球部。長崎日大から06年高校生ドラフト1巡目で阪神入団。184センチ、85キロ。右投げ右打ち。