<広島1-2阪神>◇9月30日◇マツダスタジアム

 ありがとう、アニキ。阪神金本知憲外野手(44)が11年間所属した古巣広島に別れを告げた。「5番左翼」でスタメン出場。4回に中前打を放ち、激走も見せた。試合前には広島東出、石原が花束を贈呈。右翼席からは広島時代の応援歌が演奏され、金本コールも湧き上がった。故郷でのラストゲーム。温かい拍手が鉄人を包んだ。

 ファンは、かつて金本がつけていた背番号10のユニホームを掲げ、涙を流していた。もう広島で金本の打席を見られない…。1点リードの8回無死一塁。相手は剛腕今村だ。初球をフルスイングでファウル…。2度、3度と目の覚めるような強振を繰り返したが、三邪飛。思わず天を仰いだ。

 金本

 今村だから。力のある投手。力には力で行って力負けした。あそこはホームランを打ちに行った。あれだけ3、4回、思い切り振って気持ちよかった。相手バッテリーも真っ向から来てくれたからね。久々に気持ちよかったよ。

 故郷での最終打席は完全燃焼だった。4回にはルーキー野村の直球を痛烈なライナーで中前へ。全盛期をほうふつさせるスイングを披露。一塁から一気に長駆生還する激走も見せた。

 試合前には思わぬ“サプライズ”があった。練習中に広島松田オーナーが三塁ベンチ裏に姿を見せ、労をねぎらった。愛着のある広島に別れを告げ、02年にフリーエージェント権を行使して阪神に移籍した経緯があった。それでも、現役引退に接し、同オーナーから「ホームランを打つのに、何でやめるんや」と声をかけられると、和やかな笑顔に満ちた。同オーナーは振り返る。「うちで代打でどうやと言いたくなった。ミートポイントがしっかりしている。うちはああいうのを見習わないかん」と冗談を飛ばした。そんな絶賛を裏切らない活躍だった。

 古巣からは粋な演出もあった。プレーボール直前。無我夢中で駆け抜けた広島時代の歩みがVTRにまとめられ、敵地のスクリーンに映し出される。石原、東出からは花束を贈られる。真っ赤な右翼席からはカープでのヒッティングマーチが奏でられる。故郷の温かい拍手が鉄人を包んだ。

 金本

 ありがたいこと。02年にカープを出る時ファンは気持ちよく送り出してくれた。「タイガースを助けてやれ」くらいでね。市民球場ではないけど。いい思い出は連続無併殺打、トリプルスリー。苦しかった思い出は優勝できなかった94、95、96年。いい方、悪い方の思い出がある。

 試合直後は球場全体から「金本コール」が巻き起こった。帽子を取って、手を挙げて応える。「自然な気持ちの表れだよ」。感傷的な涙はない。すべてを出し尽くし、笑顔で球場を後にした。さらばカープ、そして、ありがとう、広島…。【酒井俊作】