<ヤクルト3-9阪神>◇29日◇神宮

 激しい衝突音を残して、打球はセンターへ抜けていった。福留孝介外野手(35)は一塁ベースでバチンッ!

 と両手を合わせた。ほえた。珍しく感情をあらわにした。5回2死一、二塁。ヤクルト館山の直球を打ち砕き、3点目をたたき出した。6年ぶりの日本復帰初戦でタイムリー。敵地神宮の半分以上を埋めた黄色と黒色の声援が背番号8に降り注いだ。

 「あの声援はすごいね。すごいよ…」

 福留は虎の一員になったことを実感していた。この高ぶりが欲しかった。

 昨年オフ、DeNAか阪神か、移籍先が問題になった際、さまざまな臆測が飛び交った。ただ和枝夫人は全国どこにでも行くと言ってくれた。鹿児島県東串良の両親も何も言わなかった。おそらく、福留がどちらを選ぶであろうかを知った上で…。

 3点目を奪った直後、同点に追いつかれた。静まりかえる三塁ベンチ。ここで福留が声を張り上げた。

 「ここから、ここからだ!」

 開幕直前までリラックスを貫いてきたが、プレーボールがかかった瞬間にスイッチを入れた。試合後は自らのことよりも、チームのことが口をついた。

 「同点にされた後、試合を動かせたのはオープン戦で力がついた証拠。(声を出したのは)オレが出せば、若い選手も出しやすいと思うしね」

 仲間たちと、熱く、激しく、戦った末につかみとった勝利。6年前までは敵だった、日本一といわれるファンが酔いしれていた。その光景がうれしかった。

 昨オフ、阪神を選んだ後、周囲から口々にこう言われた。勝てば神様、負ければ犯罪者。なぜわざわざ、大変な方を選んだのか?

 「だって、その方がおもしろいじゃん」-。

 悲壮感は出さずに答えた。ただ、胸に秘めた覚悟の重さは計り知れない。あえて選んだ“いばらの道”。生きざまをまっとうする覚悟はできている。【鈴木忠平】