<ロッテ5-8日本ハム>◇4日◇QVCマリン

 大谷よく見ておけ!

 これが4番の仕事だ!

 日本ハムの中田翔内野手(23)が4日のロッテ戦(QVC)で今季1号を放った。2-2の同点で迎えた6回無死、同期のロッテ先発唐川のスライダーを左翼席へ運ぶ勝ち越しの130メートル特大弾。自身最速となる開幕から5試合目の1発で活気づいたチームは、陽岱鋼外野手(26)の満塁本塁打が飛び出すなどこの回一挙6点。連敗も3でストップし、今日5日の本拠地開幕戦に弾みをつけた。

 心は澄んでいた。中田はバットに完璧に白球を乗せると、確信した。同点の6回、先頭打者。フルスイングした打球を見届けると、ゆっくりと打席から一塁へと歩み出た。決勝ソロ。幕張の空を散歩するように高く、長く舞った。完璧な放物線だった。カウント1ボールからの2球目、スライダーを狙い打った。「直球は見せ球。変化球かな、と思った」。完全に読み切った。精度、パワー抜群の一振りで、チームの連敗を3で止めた。感じていた「嫌な流れ」をせき止める主砲の価値ある仕事に、ベンチ内の大谷もはしゃいだ。

 野武士のような荒々しい魅力が、掛け替えのない経験でさらに磨かれた。侍の1人として出場したWBC。準決勝敗退も、野手最年少ながらレギュラーの1人として奮闘した。豪快な見た目とは対照的に、心は繊細だ。4番を任された昨季も含め、極度の重圧で内臓系に異変を来すこともあった。だが、激戦に身を投じたことでタフになり、チームメートが目を丸くしたシーンがあった。

 日本代表を離れてチームに合流した3月下旬。札幌ドームでの直前練習で、ともに日の丸を背負った稲葉と談笑していた時のことだった。「4番が打てば勝つんだよ」とジョーク交じりに叱咤(しった)され、いつもならおどけてかわしていた中田が、周囲の目撃者によれば異様なすごみを醸し、無言でコクリとうなずいたという。

 WBCでは、立浪打撃コーチとフォームで激論も交わした。尊敬する先輩打者に考えを受け入れてもらった。米アリゾナでの調整中に、苦悩しながらも勇気を振り絞ったことを明かした。「立浪さんに言うだけは、言った」。その直訴が実り「認めてもらえたんよ」。同コーチの懐の深さに感謝し、恩返しのための大ブレークを胸に秘めていた。

 今季初本塁打。推定飛距離130メートル、左中間席の中段まで到達した。立浪コーチに主張し続けた左足を上げてタイミングを取る、1本足打法だった。信念を貫いたことの正しさを、確認できた。周囲が騒ぐ同級生の唐川からの会心弾。「(唐川の方が)1軍デビューが早い。1軍の投手ということで見ているだけ」と、さらりと流せた。中田が、さらに上のステージへと向かっている証拠だった。【高山通史】