<西武5-1日本ハム>◇17日◇西武ドーム

 西武岸孝之投手(28)が天国の祖父に、節目の10勝目をささげた。7回を投げ、許した安打はソロ1発だけ。自身8連勝で、自力でのCS進出の可能性を復活させた右腕は「野手に助けられました。いろんな方の支えがあった。家族のおかげです」。並べた感謝の言葉が、自分より人を思いやる岸らしかった。

 今年5月、祖父三男さんが他界した。99歳の大往生だった。岸の投げる試合のテレビ観戦をいつも楽しみにしていた。「孝之の試合はまだか」。もうろうとする意識の中で、孫の名前をずっと口にしていたという。登板を控えた岸は最後をみとることができなかったが、ひつぎにはプロ1年目のウイニングボールをしのばせた。

 書道の先生だった祖父からもらった色紙は、ずっと部屋に飾ってある。「天才には限度があり、努力は無限である」。達筆の文字で記された教訓にいつも励まされ、背中を押されてきた。開幕投手を務めた今季は1勝4敗とつまずき、2軍落ちした。ところが祖父が亡くなってすぐ1軍昇格すると、これまでの不振がうそのように9勝1敗と復活した。「最初を考えると、よくここまでこられた」と不思議な力を感じずにはいられなかった。

 入団7年目で6度の2ケタ勝利は稲尾、西口、松坂に次いで球団4人目。名だたる歴代エースの記録に肩を並べた。大きな故障もなく、厳しいプロの世界を生き抜いてきた細身の体は、家族の愛に支えられている。【柴田猛夫】