<DeNA1-7阪神>◇26日◇横浜

 魂の左腕が、大復活した。阪神岩田稔投手(30)が3年ぶりの完投勝利を挙げた。長く先発陣の一角を務めた08年10勝左腕が「引退」の2文字さえ覚悟する背水のシーズン。ここまでの歯がゆさ、ふがいなさをまとめて晴らすような9回110球、無四球で1失点の快投だ。好調打線に援護されながら、先発陣が整ってきたぞ。

 三塁側から西日が照っていた。試合終了の午後4時49分まで、岩田はマウンドに立ち続けた。迷いは消えた。11年10月7日横浜戦(横浜)以来、3年ぶりの完投勝利を無四球で飾った。「今年ダメなら引退くらいの気持ちで」。2月に口にした覚悟を胸に秘め、無心で腕を振った。

 「正直、いっぱい点をとってもらって、楽な展開で投げさせてもらえた。先のことは見ていないので、1イニングずつです」

 きっかけをつかもうと、オフは動き回った。昨年末は米国アリゾナで自主トレ。その後は中日山本昌らとともに鳥取市内のトレーニング施設「ワールドウィング」で初動負荷トレーニングを学んだ。個人トレーナーを務める稲川氏は「野球少年に戻った感じだった」と回顧する。キャンプには米国で主流の特種器具を持ち込み、内部の筋肉を鍛えるインナートレーニングも取り入れた。

 開幕ローテーション入りを逃すと、原点回帰した。セットで前傾の姿勢をとり、重心を落とした。球に体重が乗り、ボールに力が戻ってきた。求めたのは「捕手に突き刺さる球を投げていた」というかつての直球だった。

 直球にスライダー、ツーシーム、カーブを低めに集め、13個のゴロを打たせた。許した安打は4本のみ。捕手鶴岡からの返球を捕ると、すぐにセットに入った。課題だった立ち上がりも初回を7球でピシャリ。先制点を奪った直後の2回も14球で切り、いずれも3者凡退で打ち取った。

 「テンポよく、ムダな四球だけ出さないようにですね。守ってもらっているので、すごく助かった。紙一重ですけど」

 20日ヤクルト戦で挙げた1勝目は「歯がゆかった」が、今回はその手でつかみ取った。4月だけで、昨季に並ぶ2勝目。次週はヤクルト戦で、相性なども考慮して1度出場選手登録を抹消されることが濃厚だが、「今日のような投球を続けて、ローテを守っていきたい」。黄色に染まった左翼スタンドを見つめて言った。強い岩田が帰ってきた。【池本泰尚】

 ◆今後のローテーション

 岩田は前回の20日ヤクルト戦で5回4失点だった。次週、5月3日からはヤクルト戦で、この結果を考慮して出場選手登録を抹消することが濃厚。代わって今日27日に先発する歳内が登録される。歳内の結果次第ながらヤクルト戦には秋山、岩本、鶴らが先発候補。岩田は再登録が可能な7日中日戦以降の先発を目指して調整するとみられる。