<阪神1-6広島>◇1日◇甲子園

 広島はドラフト1位ルーキー大瀬良大地投手(22)が、プロ初完投で3勝目を挙げ、首位を守った。9回にゴメスに1発を浴びて完封こそ逃したが、4月16日にプロ初勝利を挙げた阪神打線から7三振を奪って1失点。開幕から得点圏に走者を背負った場面で1本の適時打も許していない。ピンチに強い男が、セ新人では完投一番乗り。阪神戦3連敗での首位陥落を阻止した。

 野村監督が山内投手コーチを手で制し、自らマウンドに向かった。9回裏、先頭ゴメスに1発を浴び完封を逃した。なお2死二、三塁のピンチを招いた場面だった。「完封はそんな簡単にできない。甘いもんじゃないんだ!」。野村監督のゲキに、大瀬良は何度もうなずいた。

 「ちょっと完封を意識してしまって…」。最後は冷静さを取り戻し、代打新井貴を内角直球で二ゴロに仕留めた。「あれだけ粘られて、完投は簡単じゃないな、と。疲れはあった。最後は気合だけでした」。この回だけで29球。148球の難産で8安打1失点のプロ初完投を決めた。

 公式戦では甲子園初登板だった。長崎日大3年夏、ここで腰痛を周囲に隠して花巻東の菊池(現西武)と投げ合い、6回1/3を4失点で負けた。「舞台は違うけど、思い出のあるところで勝てて良かった」。苦い記憶を5年かけて消し去った。

 高校時代には、もう1つ苦い記憶がある。入学したばかりの1年春。中学3年で右肘を手術した大瀬良は、打者として練習していた。竹バットによるフリー打撃で詰まり「手が折れたかと思った」。常にフルスイングが決まりだったが、あまりの痛さに直後の1球はコツンと当てただけの打撃をした。これで金城孝夫監督から激怒された。「オマエみたいなヤツ、2度と打たなくてもいい!」。以来、フリー打撃で名前を呼ばれても「はい!」と返事だけして逃げ回った。「情けない記憶です…」。今は分かる。弱気は最大の敵だと。だから決して逃げない。

 ピンチにも、最速147キロの内角直球を軸に攻めた。3回無死一、二塁、6回無死二塁、8回2死一、二塁、9回2死二、三塁。すべてのピンチを無得点でしのいだ。デビュー戦以来、得点圏に走者を背負った場面は24打数無安打と、1本の適時打も許していない。「ここを抜いて、とかできるタイプじゃない」。強気が最大の武器とする。

 前回は6連勝の虎を止め、今回は甲子園10連勝中の虎を止め、虎キラーを襲名した。チームの連敗を2で止めての自身3連勝は価値がある。首位陥落を阻止し、2位阪神に再び1ゲーム差をつけた。「先発すれば、誰にもマウンドを譲りたくない気持ちはあります」。大瀬良大地、22歳。実力は本物だ。【佐井陽介】

 ▼大瀬良がプロ初完投で3勝目。148球は4月25日岸(西武)と並び今季両リーグ最多投球数となった。この日はソロ本塁打の1失点だけで、今季の失点はソロ本塁打3本で3点、走者一塁の2ラン2本で4点、失策で1点、内野ゴロ1点の計9点。走者を得点圏に背負った場面では24打数0安打と安打を打たれていない。70年以降、規定投球回に到達して得点圏被打率1位は、防御率0・98だった70年村山(阪神)の6分5厘(77打数5安打)で2位は71年山田(阪急)の1割3分6厘。大瀬良はどこまで続くか。