<巨人1-2DeNA>◇6日◇東京ドーム
巨人に日常が戻った。原辰徳監督(55)が、2戦ぶりにチームに合流し、采配を振った。父である原貢氏(79=東海大系列野球部顧問)が心筋梗塞と大動脈解離を併発。5日の中日戦は現場を離れ、入院中の父と面会していた。1点差で惜敗したが、普段と変わらず1勝を重ねる姿勢に徹した。本分を全うする。
見えなくても分かった。いつもと同じ悠然としたリズムで、心地よい足音が大きく響いた。午後1時27分、原監督が東京ドームの階段を下りてきた。凜(りん)と胸を張って通路に現れた。11年間も繰り返されてきた巨人の日常だった。「ご迷惑をおかけしました」と切り出した。「昨日と一緒で、一生懸命に闘っている。その点に関しては祈るしかない。昨日、会うことはできたけど(寝ていて)意思を伝えることはできませんでした」と、病床の貢氏について丁寧に説明してくれた。
父が簡単な病気ではない。会話もできない。原監督は何も変わらない。グラウンドに出てノックバットを回し、打撃ケージに陣取って、選手たちを吟味した。「9連戦の真ん中、ということもある。総合的に考えて」と、DeNA先発久保から今季無安打のロペスを、初めてスタメンから外した。アンダーソンを一塁、高橋由を左翼に配した。この日を特別視した「鬼采配」でも何でもない。勝ってカードの頭を取る。唯一、かつ最大の目的に徹した。
ベンチの上座にどしっと構えた。先発セドンがうまく立ち上がれず、2回に2点を先制された。その裏。1死満塁で打者は8番橋本だった。ネクストに、ロペスを立たせた。橋本が四球を選ぶとロペスを下げ、セドンを打席に送る味なタクトだった。「交代も覚悟していた。打席に立たせてくれて、燃え上がった。監督のゲキ」。シグナルは助っ人に伝わった。不安定の中で7回までこらえ、1点差の試合に持ち込んだ。
8、9回の1死一塁では鈴木、藤村と俊足を送った。両脇をギュッと締める代走ポーズで交代を告げ、次打者の肩に手を置いて思惑を伝えた。元気な原監督を見たい。自軍の面々はもちろん、東京ドームのファンが求めている像そのままだった。試合後は「1点ではなかなか。いつもこうなる」と久保へのアプローチを反省。セドンに「立ち上がりを、少し工夫する必要がある」と注文した。現場を離れた5日についての問いは「今日は、いいのでは」と制した。
試合は今日もある。前にしか進めない。将がうつむいていて勝てるわけがない。私情を徹底的に排す。極限の中で見せた原監督の立ち居振る舞いをどう受け止めるかは、人によって違う。ただ「いかなる時も、当たり前のことを、当たり前に行う」その姿は、万人に訴える普遍性に満ちている。【宮下敬至】



