<楽天1-9阪神>◇4日◇コボスタ宮城
阪神が逆境を跳ね返すには、この男の力が必要だった。新井貴浩内野手(37)だ。藤浪が1点を先制された直後の2回、先頭打者として打席に立った。速球を強振すると鋭くセンター左へ。全速力で一塁を蹴ると、中堅手の捕球体勢を見て再びギアを上げて二塁へ滑り込んだ。この一打を起爆剤に、打線はここから3点を奪って逆転だ。
「(二塁は)どうかなと思ったけど、前へ前へと思って。代打でも、スタメンでも変わらないよ」
前日は9回に3点差を逆転されてサヨナラ負け。メッセンジャー、呉昇桓という鉄壁リレーで敗れたショックは計り知れなかった。危機的状況で迎えたこの日、首脳陣が頼ったのは新井だった。2年ぶりのスタメン三塁を出発前の宿舎で告げられた。「昨日、嫌な負け方してるし、ムードを変えるのに新井に一役買ってもらおうと」(和田監督)。今成と弟・新井良の戦場だったはずのホットコーナーにあえて起用したのはチームの有事だったからだ。
「緊張はしたよ。でも、同じエラーするんでも前に出てと思っていた。消極的にはならないように」
初回、先頭藤田の痛烈な打球が三塁へ飛んだ。新井は下がらず、少しはじいてもすぐに一塁へ。バットではさらに3回に右前打。2回の逆転も、3回の追加点も新井の安打がきっかけ。その姿勢が流れを変えた。
「いくぞ、いくぞ、いくぞ、いくぞ…」
代打で過ごす今季、新井は胸の中で呪文のように唱えているという。第1ストライクから振っていくスタイルだが、その裏には葛藤がある。わずか1打席のチャンス。大事にいこうとする気持ちは当然、湧いてくる。そんな自分と戦うために打席の何時間も前から呪文を唱え、自らを“洗脳”する。本塁打を打っても、三振しても、試合後の過ごし方は変わらないという。
「試合に出ていなくても常にそう思って張り詰めている。打っても、喜んだらそれが途切れてしまうような気がするんだ」
朝が来ればすべて忘れる。そして、次の勝負へと自分を駆り立てる。「いくぞ、いくぞ、いくぞ…」。この日もストライクはすべて振った。選手として逆境に立ち向かい、己との勝負に勝った男が、沈没しそうだった猛虎を救った。
▼新井の先発三塁は12年7月8日巨人戦(東京ドーム)以来、696日ぶり。この試合では4番を打ち4打数1安打だった。今季の新井は開幕から24戦代打で起用され21打数5安打、打率・238、本塁打1本、打点8。5月25日から先発に抜てきされ4試合(一塁が3試合、DH1試合)で15打数6安打、打率・400をマークしていた。



