<阪神5-4DeNA>◇1日◇甲子園

 おめでとう甲子園、ありがとう甲子園!

 阪神が延長10回、福留孝介外野手(37)の中前打でサヨナラ勝ちした。目の前で代打関本が敬遠され、ベテランが意地の一打で劇的勝利をもたらした。すっきりとはいかなかったが、最後はみんな笑顔に包まれた。長い歴史を刻んだ聖地は、いつでも虎の味方だ。

 甲子園が喜んでいた。ナインが一斉に飛び出してくる。歓喜の輪の中心には福留がいる。ヘルメットを脱がされ、冷水を頭からぶっかけられた。お立ち台で「寒いです。寒い!

 ちょっと冷たい水をかけられた」と声を上ずらせ、笑いを誘う。今季5度目のサヨナラ勝ち。燃えるベテランが7月22日巨人戦でのサヨナラ弾以来の劇勝を呼び、聖地90周年に花を添えた。

 延長10回1死三塁。代打関本が敬遠され、血が沸き立った。「絶対に決めてやると。目の前で敬遠されたので」。左腕大原は立て続けに外角スライダーを投げてきた。空振りし、ファウルする。2球で追い込まれた直後。腹をくくった。外を狙う-。「割り切ってね。インサイドに来たら当たってもいいやと。それくらい割り切って待っていました」。外角高めに逃げていく球を的確に捉えると、ライナーで中前に弾んだ。

 苦しいときほど黙って勝負する。3月30日巨人戦で二塁西岡と交錯するアクシデント。西岡の重傷が伝えられる中、福留については、球団が「胸部打撲」と発表したが、実情は違う。関係者は「2カ所も骨折しているのに、ずっと黙ってプレーしていた。なかなかできないよ」と明かす。重傷を隠しながらグラウンドに立ち続けていた。

 甲子園には汗や涙がしみ込んでいる。「高校時代にプレーして、プロ野球選手を目指していた。この日に勝てて良かった」。PL学園時代は強打で脚光を浴びた。中日時代の07年7月には右翼守備で三塁送球時に右肘を痛め、オフに手術する重傷だった。メジャーから日本球界復帰を決めた12年は阪神かDeNAか進路に悩んだが「決め手は甲子園だった」と言う。野球人生の節目は甲子園とともにある。喜びも苦しみも味わった特別な場所なのだ。

 同点の9回に2死一、二塁のピンチを招くと、右翼の定位置より前へ。指示が出て、さらに数歩、前に出た。「絶対に(本塁に)かえられるわけにいかない場面。頭を越されたら『ゴメンナサイ』。自分の感覚もあるから」。山崎の右前打を捕ると、本塁にノーバウンド送球。勝ちを目指す気迫が全身からあふれ出ていた。技術、経験、執念…。ベテランの生きざまがドラマを生んだ。【酒井俊作】