<ヤクルト4-6巨人>◇19日◇神宮

 神宮のリングでフォール勝ちを収めたのは、慎之助の必殺の1発だった。巨人阿部慎之助捕手(35)がヤクルト戦の延長11回2死二塁で決勝の13号2ランで乱戦に決着をつけた。神宮では今季3戦5発と破壊的。相手ベンチ内の乱闘騒ぎも含めて何かが起こる神宮バトルでは抜群の勝負強さを発揮している。猛追する阪神、広島とのバトルロワイヤルもこの勢いで制す。

 必殺ラリアットのように、バットを豪快にブン回した。2点リードの7回に逆転され、9回は2死から同点に追いついた予測不能の乱戦。最後に勝者をコールされたのは破壊王阿部だった。延長11回2死二塁。ヤクルト久古の外角直球を、両腕が体の内側から巻きつくような理想的、かつ破壊的なスイングで左翼席へ押し込んだ。決勝の13号2ランは今季3戦目の神宮で6安打中5本塁打となる必殺技だった。「ホームランしか打っていないだろう?」とヒーローは豪快に言い放った。

 闘魂に火がついた。5回終了時の打ち上げ花火のイベント。「オイ!

 阿部と坂本!

 花火を見ていないで素振りをしろ~」。スタンドにいた見知らぬ中年男性がベンチ上から、ヤジを飛ばしてきた。「オレのおやじかと思った。わざわざ来て言ってきた。オレの心を燃やしてくれたよ。あのオジさんのおかげで打てた」。闘う男の生きざまを見せつけた。

 乱闘がさらに闘争心をかきたてた、のかもしれない。相手ベンチ内のバレンティンとバーネットの乱闘騒ぎを「見てましたよ」と乱れた空気を察知していた。4月16日のヤクルト戦(神宮)ではマシソンがバレンティンに1発を浴びて乱闘寸前。延長戦で決勝弾を放ち「打たれて、負け犬の遠ぼえみたいだった。あいつが、悪い」と味方を厳しくいさめた。この日も相手の仲間割れに乗じて、乱戦にケリをつけた。

 素顔は子煩悩の優しいパパ。休日は子供3人を愛車に押し込み「パパ~」とせがまれながら、外出する。だが好きな映画は武闘派だ。「アウトレイジいいよね。ビートたけしさん(大友)が『野球やろうか?』と言ってバッティングセンターのピッチングマシンで相手の顔面をぶつけるシーン。いいよね~」。もちろん物語の世界だが、血がたぎる。

 阪神、広島と荒ぶる猛者たちが迫り来るが「そんなことを気にして試合はしていない」と制した。己との闘いを制すれば、リーグ3連覇のチャンピオンベルトが戴冠できる。【広重竜太郎】

 ▼阿部が延長11回に勝ち越し2ラン。延長戦のVアーチは4月16日ヤクルト戦に次いで通算5本目。年間2本は自身初となる。今季は殊勲安打13本のうち7安打がヤクルト戦。特に神宮では13本塁打のうち3試合で5発と量産し、そのうち4本が同点、勝ち越し弾と勝負強い。