<ソフトバンク2-4日本ハム>◇26日◇ヤフオクドーム

 「二刀流」は64年ぶりの、歴史的な2桁勝利だ。2年目の日本ハム大谷翔平投手(20)が初の2桁となる10勝(3敗)をマークした。今季登板3試合で白星のなかった首位ソフトバンク相手に最速156キロながら7回5安打1失点。2桁勝利に王手をかけてから4度足踏みしたが、7月16日西武戦(旭川)以来の勝ち星を手にし、チームを3連勝に導いた。

 勲章だった「162キロの幻影」と闘い、勝った。大谷が後半戦初勝利、10勝目を挙げた。20歳は胸に、誰も知らないジレンマがあった。節目の1勝をつかみ、やっと苦悩を打ち明けることができた。

 大谷

 オールスターでスピードを出そうとして腕を振り過ぎた。あらためて振り過ぎないようにしたい。

 5戦ぶり白星。迷い込んだトンネルに自己分析していた要因があった。7月19日、甲子園での球宴第2戦で、日本人史上最速162キロをたたき出した。代償は大きかった。発展途上の投球メカニズムに狂いが生じた。プロ入り後、適切な動作、フォームを磨いてきた。右腕は「振る」ではなく「振れる」ものという理想が、崩れた。

 復活のため、丹念に修正していった。この日最速は156キロ。2安打1四球で1失点と乱れた1回以降は開き直った。足を上げるタイミングなど、細部を意識してフォームを「自分の感じなんで」と手探りで修正。今季3戦2敗の苦手ソフトバンク相手に、心身ともにスイッチも入った。「真っすぐが良かった」。球速では測れないキレを実感し、結果も出た。

 2年目の今季。順風満帆だったようでも、「谷」もあった。開幕直前、軽度の右肘痛に見舞われた。3月8日、オープン戦の阪神戦だった。盟友藤浪と投げ合い5回1失点と好投して白星。その翌日、違和感に襲われた。要因の1つとされたのが当時、使い始めたばかりの高速カーブを多投したこと。札幌ドームでの3月28日からのオリックスとの開幕3連戦で登板予定だったが、見送った。

 オープン戦も1試合回避。開幕6戦目の4月3日ソフトバンク戦に回る措置でしのいだ。2桁にリーチをかけてから4戦未勝利。過去にもあったがロッカー室で用具にあたり、やり場のない怒りを発散。日頃は穏やかで温厚な東北育ちの青年が荒々しい一面ものぞかせた。「結果はついてきてくれるに越したことはない」。受け入れようとしても、周囲が驚くほど入れ込んでいた日々もあった。

 1度は体に刻まれた162キロの記憶に、初の2桁勝利とシーズン佳境の重圧。「解消はされていないけれどきっかけはつかんだ」。記録、数字ではなく確信できた思いが収穫。大投手への扉を、1つ開いた。【高山通史】

 ▼大谷が今季10勝目を挙げた。高卒2年目以内の2ケタ勝利は1年目で10勝した昨年の藤浪(阪神)以来で、日本ハムでは2年目に12勝したダルビッシュ以来になる。大谷は投手で20試合に先発登板し、野手では先発出場が38試合、途中出場が11試合。野手としても20試合以上に先発した「二刀流選手」が2ケタ勝利を記録したのは50年野口二郎(阪急)以来、64年ぶり。野口は15勝9敗で、防御率3・16が6位、打率2割5分9厘が30位と、両部門とも規定をクリアしていた。