<西武0-5日本ハム>◇17日◇西武ドーム

 何度も描いてきた放物線が、この夜は特別輝いて見えた。今季限りでの引退を表明している日本ハム稲葉篤紀内野手(42)が9回、右翼席に通算260本目のアーチを架けた。内角直球を体の回転でたたく、“真骨頂”のフルスイング。「久しぶりに自分のスイングができた。今年一番(の当たり)じゃないかな。ホッとした。もうヒットが出ないんじゃないかと思った」。今月2日の引退会見後、初安打が本塁打。スタンドが、ベンチが、総立ちになった。

 引退表明から17打席無安打。「硬さがありました」。ファンの期待を感じるほどに、体が言うことを聞かなくなった。心の中で繰り返し唱えた。「自信をなくすな」。衰える肉体と、下降する打撃成績。弱気になりそうな気持ちに、必死で反発した。「まだまだオレはできるぞって、前向きな感じで練習していた」。視線を下に落とすことだけは、絶対にしなかった。

 公式戦は残り14試合。「引退興行」になることは、本人が一番嫌っている。「チームが勝つためにやっているので、気を使わないでください」。コーチには直接、そう申し出た。だが、弾丸ライナーでスタンドに消えた打球が、答えだ。CSへ、ベテランのバットは貴重な戦力だ。

 待望の1発に、ベンチもお祭り騒ぎ。栗山監督は「オレも感動した。選手たちも感動していた」。逆転での本拠地CS開催へ、ラストスパートへの機運が一気に高まった。稲葉は「僕はホームランバッターじゃないし、もう最後かもしれない。でも、とにかく1戦1戦、最後まで戦っていくだけ」。その先に、最高のフィナーレが待っている。【本間翼】

 ▼42歳1カ月の稲葉が代打本塁打。稲葉の代打本塁打は05年8月7日西武戦以来、9年ぶり6本目になる。42歳を過ぎて代打本塁打は12年9月26日金本(阪神=44歳5カ月)以来だが、パ・リーグでは94年6月25日オリックス戦で43歳8カ月の大島(日本ハム)が打って以来、20年ぶり。