<阪神3-4中日>◇21日◇甲子園

 9回2死走者なし。虎のストッパーがマウンドではなく打席でスポットライトを浴びた。やや小さめのヘルメットをかぶった呉昇桓投手(32)が右打席に入る。西岡剛内野手(30)に借りたツートンカラーのバットを持ち、素振りを2度行ってから、ベースから離れて立った。

 中日のストッパー福谷の初球を踏み込んでスイング。148キロの直球は二遊間へ飛んだ。二塁手荒木が追いつくも、足が速い。プロ初打席の初球で「Hランプ」を点灯させた。

 「1球目だったので、特になにも思わなかった。(初球を)狙っていたわけではありません」

 高校時代は「1番センター」。指名打者制を採用する韓国プロ野球では打席の経験もない。来日してからも打撃練習はほとんどしていない。だが、足は韓国の強豪サムスンでも1、2を争う速さだったという。抜群の身体能力を武器に、一振りで安打を記録。敗戦に笑顔はなかったが、西岡にもらったバットと記念ボールを江口通訳に持たせていた。

 マウンドでも4万3376人の視線を独り占めした。出番は同点の9回から。オール直球で平田、古本を空振り三振など3人で仕留めた。跳びはねるようなおなじみのフォームで圧倒的な投球。ベンチに戻ると、中西投手コーチが近づいてきた。「2死走者なしなら(打席に)行くぞ」。来日4度目のイニングまたぎを告げられ「準備はできていた」。

 もっとも、初安打後の激走は想定外だったろう。次打者梅野の投ゴロから一塁悪送球となり、一塁から三塁へ突っ走った。惜しくもサヨナラのホームまでは踏めなかったが、すぐに投手の顔になった。9回の攻撃を終えた三塁上からベンチに戻り、汗を拭いてマウンドへあがった。打席後の登板はさすがに経験したことはないが、楽々だった。8番から始まる打線を3者凡退に締めた。来日最長となる2回を無安打無失点。堂々と立ちふさがった。短期決戦のCSでも、勝負手としてあるかも知れない。

 家では読書を楽しみ、休日は大阪市内を探検する。トレーニングは球場ですべて終え、仕事は持ち帰らない。「切り替えが大事だと思います」。何でもこなす頼もしい男が、阪神にいる。【池本泰尚】

 ▼呉昇桓の2イニング登板は来日最長。イニングをまたいでの登板は過去3度あったが、いずれも1回1/3だった。9回には来日初打席に立ち、二塁へ初安打。阪神の外国人投手の日本初打席初安打は、ホッジスが04年7月17日中日戦(甲子園)で、2回に左前打して以来10年ぶり6人目。過去の5人はいずれも先発で、救援投手の初打席初安打は球団史上初となった。