<強竜への提言(上)>

 元横浜の日本一監督で野球評論家の権藤博氏(75)が6日、2年連続Bクラスに終わった中日谷繁体制1年目を総括した。特に横浜時代の愛弟子でもある谷繁元信兼任監督(43)とベンチワークにスポットを当て、今季の反省と来季逆襲への修正課題を提言。12年には中日投手コーチも務めた名伯楽が、あえて厳しい叱咤(しった)激励の数々を上下2回のエールとし、来季V奪回を願った。

 中日が今季Bクラスに終わった一番の要因は、谷繁兼任監督の出番が少なかったことだ。去年監督になった時、本人に「規定打席に達しないとAクラスはないヨ」と言った。規定打席到達には120試合ぐら出ないといけない。それぐらい谷繁が出ないと勝てないということです。でも今年は中日に来てから初めて、19年ぶりの100試合割れの91試合にとどまり、当然規定打席にも届かなかった。

 中日は谷繁がFAで入団した02年から12年まで、11年連続Aクラスで4回リーグ優勝した。「守り勝つ野球」を体現した象徴が捕手谷繁で、それぐらい谷繁で持ってきたチームだ。監督の代わりはいても捕手谷繁の代わりはいない。今も存在は大きく2番手捕手との差は大きい。だから出番が少ないほど負けは増える。

 何より対戦相手が楽だったはず。不気味でピカイチのインサイドワークは言うまでもなく、スローイングもまだまだ速い。打率は1割台だろうが、出ているだけでスタメンの重さが違う。相手に与えるプレッシャーが全然違う。投手をはじめ、味方の安心感も全然違う。競った勝負どころほどその差が顕著に表れる。本当は出まくって相手を嫌がらせないといけないのに、真逆をいってしまった。

 兼任監督の重圧はあったと思う。監督自身、多くの故障を抱えながらの戦いで大変だったと思う。後進を育成する意味もあったと思う。でも若手との差が大きい以上、勝ちたいなら出るしかない。もっと言えば、監督になったことで、ポジションを奪われる危機感を失ってはいなかったか。少々故障していても、選手専任ならこれまでと同じように出ていたのではないか。

 兼任監督の一番の利点は、出ながら試合をコントロールできること。しかも捕手は扇の要だから、肌身と五感で感じたことをそのまま采配に生かせることだ。監督が出ている間は森ヘッドが監督代行を務めて選手交代を告げていたが、そのルールも不便極まりない。監督が直接審判に言えばファンにもわかりやすい。その一呼吸がヘッドと監督の間で互いに“不要な遠慮”につながり、アウンにならない部分もあったと思う。

 少し横道にそれたが、中日は広いナゴヤドームを本拠地とする以上、バッテリーを中心とした守り勝つ野球を続けるしかない。先日優勝したソフトバンクは打撃のチームだけど、投手陣がヘバったから最終戦までもつれる展開になった。一方のオリックスは投手陣が頑張ったからあと1歩まで追い詰められた。いくら打っても、守り勝つ野球の方が勝てる確率が高いことを証明していた。特に中日は、たとえバレンティンやゴメスみたいな選手がいたとしても、ディフェンスで勝っていくしかないのです。

 球団は捕手補強も検討しているようだが、何も決定していない以上、来年も谷繁頼みは変わらない。捕手というポジションは正妻がいる間は育たない。今年言った120試合とはいわないが、100試合は出ないと来年もAクラスは厳しいと予想する。私が横浜の監督で日本一になれたあの時も谷繁で勝てた。誰が勝たすんだ、ということです。巨人は別格としても、この2年間で阪神と広島に立場を逆転された。若い選手が多い分、CSに出てますます自信もつけている。来年はもっと強くなるはずだ。

 18歳で入団して26年間出続けてきたから、今年のように1度休むと来年はもっときついと思う。でも今年出なかった分、余力は残っているはず。できないなら潔く辞めないといけない。クローザー捕手も一考してほしい。たとえスタメンを外れても、リードした終盤にマスクをかぶり、逃げ切り態勢を確立する。これほど相手がイヤがる展開はない。巨人も一塁に回していた阿部を勝負がかかった秋口から捕手に戻した。阿部が定位置に座るだけで重みが違った。扇の要はそれだけ重要であるということだ。来季は選手としてのラストイヤーの決意で挑むと思う。その時、自分が捨て石になる覚悟で戦えば勝てる。谷繁元信のすべてを出し尽くして完全燃焼すれば、今年のようなことはない。【取材・構成=松井清員】