<セCSファーストステージ:阪神1-0広島>◇第1戦◇11日◇甲子園

 シーズン終了直後の10月3日。阪神ランディ・メッセンジャー投手(33)は首脳陣から直々に、この日の先発を言い渡された。名誉とプライドをくすぐられた。家族と離れ、単身赴任中の身だ。1人高ぶる感情を抑えた。投げれば、ベストパフォーマンスを発揮する自信がある。ニンマリしながら重圧を楽しんでいた。

 「最高の気分だったよ。光栄なことだからね。任せてもらったことが正しい采配だったと思っているよ」

 大役を全うしようと、気合も入れた。9日の練習後、愛用するバリカンで短髪をさらに短く刈り上げた。鏡に向き合い、後ろは逆三角形に見えるように長さも調節した。もう何年もやっているセルフ散髪だ。「クールだろ?

 気持ちも整えないとと思ってね。オレがやったんだ」。整えた気持ちが、ここ一番の場面で出た。

 1点リードの8回。男のプライドが見えた。先頭打者に四球を与え、一ゴロで1死二塁。ピンチで広島の上位打線と向き合った。菊池は2球目のカットボールで中飛に打ち取った。2死二塁で相対した丸にはフルカウントから遊飛に打ち取った。するとメッセはマウンド付近で両手を激しく突き上げ、ほえた。

 「イライラしたんだけど、深呼吸して。切り替えられたよ。ロースコアだったけど、自分の仕事を見失わないようにしたよ」

 8回4安打無失点。1回に連打で背負った2死一、二塁のピンチを切り抜けると、以降は難なく快投を続けた。振り返れば三塁すら踏ませない投球。最速153キロの直球を軸にしながらカーブ、カットボール、ツーシーム、フォークなど全球種をバランスよく配球した。来日5年目にして、ようやく体験したCS初勝利。昨年は第2戦で6回途中2失点も敗退のマウンドになった。しっかりと昨季の借りを返した。

 「昨日は昨日、今日は今日だよ」。前日10日の全体練習では開始時間を間違える痛恨のミスを犯していた。だが今はそれも笑って振り返られる。家に帰ったら家族に喜びの電話をかける。それで今日の出来事は終わり。次は中4日での巨人戦登板を信じて、また準備だ。【池本泰尚】

 ▼メッセンジャーは今季、公式戦と合わせ甲子園で広島戦3試合に登板し3勝。計24イニングを投げ無失点だ。被打率は1割1分8厘(76打数9安打)で長打は1本もなしと、広島打線を完全に抑え込んだ。

 ◆メッセの昨年CS登板

 阪神1敗で迎えた、ファーストステージ第2戦10月13日広島戦(甲子園)に先発。5回まで3被安で無失点と、万全の立ち上がり。ところが1点リードの6回、1死三塁からキラ、2死三塁からはエルドレッドに適時打を浴び、逆転を許す。結局5回2/3を2失点で降板。救援陣も小刻みに失点し、阪神は2連敗で敗退が決まった。