<SMBC日本シリーズ2014:ソフトバンク1-0阪神>◇第5戦◇30日◇ヤフオクドーム

 最後は史上初の守備妨害での幕切れとなった。1点を追う9回、阪神西岡剛内野手(30)が1死満塁の好機で守備妨害を宣告され、併殺でソフトバンクの優勝が決まった。阪神和田監督が審判団に猛抗議する横で、ソフトバンクの選手たちは歓喜の輪。今季限りの退任を表明していたソフトバンク秋山幸二監督(52)はドタバタの中での日本一の舞となった。

 9回1死満塁のピンチをはねのけ、頂点に立った。駆け寄る教え子たちの笑みに秋山監督もつられた。涙はない。今秋3度目にして、最後の胴上げが始まる。信頼を置く選手たちに身を委ね、優勝監督の“最多胴上げ回数”を狙った内川のアイデアで、10度舞った。目いっぱい放り投げてくれるが、やっぱりドームの天井は遠かった。

 「信じられないですね。数多くの日本シリーズを経験しましたが、こういう終わり方は初めてですね。選手たちはあきらめず1年間戦い、日本一までこられた。感謝しています。福岡の地で3連勝できた。ファンの皆さんの前で日本一。うれしい。最高です。何も言うことないです」

 アッという間に過ぎた6年だった。選手の成長を自分のことのように喜んだ日々。「1人1人が技術を高めれば、チームも高まるだろ」。テレビ番組で見た全盲のピアニスト、辻井伸行さんの姿に胸を打たれた。「人間って才能を引き出すことができるんだ」。選手を伸ばしたい一心で、ついコーチの職域に踏み込むことも。フォームの手本を見せようとブルペンで剛球を投じ、20メートルダッシュで外国人選手に勝ち、フリー打撃で柵越えする52歳。希代な「動ける監督」だった。

 王政権に比べ、強く日本一を要求された。特に、今年は大型補強があった。誰も推し量れない重圧。心がささくれ、ベンチを蹴飛ばすことも。野球を離れた指揮官の自宅に小さな癒やし係がいた。ミニチュア・ピンシャーの愛犬セブン。「ご飯の時だけ俺のところに寄ってくるんだけどね」。引退後、千晶夫人の勧めで飼い始めた先代の名前がラッキー。「2匹でラッキーセブンでいいだろ」。少し誇らしげに言った。「俺は絶対にしない」と言っていた秋山監督のたった1つの験担ぎだったと言える。

 監督就任前、司馬遼太郎著「人間というもの」を手に取った。同氏の作品から名言を厳選した1冊。敵を知る知恵や兵法の本質、行動、何より人間とは何なのか。「何でも吸収しないと」。人知れず内面を高める作業を重ね、巨大戦力を束ねてきた。

 6年を一区切りに退任すると腹をくくった。CS開幕前に表面化すると「けじめをつけるしかない。動揺させてはいけない」と球団を押し切り、自ら会見を開いて騒動を収束。チームを短期決戦に集中させた。素早い決断がCS突破、日本一に誘った。いつだって試練は心の砥石(といし)だった。

 ファンが奏でる「秋山!

 秋山!」のコールがいつまでも耳に響く。秋山ホークス最後の勝ちどきは心に染み込むように、しかし、力強く、広い、広いドームに上がった。【押谷謙爾】