裸一貫、のし上がる!

 阪神の新入団5選手が6日、西宮市内の選手寮「虎風荘」に入った。豪華な日常品や思い出の品。多くの持参品が注目される入寮で、ドラフト1位横山雄哉投手(20=新日鉄住金鹿島)が持ち込んだのは、新調した野球道具と服のみ。愛用していた野球道具や生活用品、マイカーまで置いてきて「ミスター0」として新生活をスタートさせた。

 雨が強くなった午前11時50分。身軽な装いで横山は鳴尾浜に現れた。故郷の山形から持ってきたのは、新調した紺色のグラブと最小限の服のみ。生活感も何もない部屋から、プロ生活をスタートする。

 「使っていたテレビも家具も全部置いてきました。車も。今シーズン使っていたグラブも愛着があったんですけど、それも置いてきました」

 これまで支えてくれたものは全て、茨城に置いてきた。プロの世界まで導いてくれたグラブとも別れた。給料をためて買ったという数百万円した愛車も、みんなで使ってくれればと茨城・鹿嶋市内の新日鉄住金鹿島の寮に残してきた。「特に理由はないですけど、もう1回、一からやっていこうと思って」とすがすがしい表情で決意を語った。

 まさに愛車だった。結果が出なくて苦しいときは、近くの海までドライブした。グラウンドは鹿島灘のすぐそば。海岸線を走りながらきれいな景色を眺めるのが、最高のリフレッシュ方法だった。山形中央時代のチームメートに会いに、愛車を走らせたこともあった。思い出はたくさんある。それでも決別した。

 プロで一からやっていく-。覚悟を持って新天地へ乗り込んだ。初めて親元を離れた18歳のときは、これまで実家で使用していた生活用品を持参した。「テレビとか家具もこっちで買うつもりです」。初めて関西の地で生活する。「初めてなので不安もある」と心境を話したこともあるが、環境を整える意味でも、思い出の品にすがらなかった。

 早々と荷物の整理を終えた。部屋からベランダに出ると、鳴尾浜球場が目の前に広がった。「今日からずっとここに住んでいくんだと。阪神タイガースに入団したんだと、あらためて気が引き締まりました」。8日から開始する新人合同自主トレも「山形でしっかりやっていたので」と準備は万端だ。

 汗水を流し、1軍のマウンドを目指す。ほぼ手ぶらで立った、夢のスタートライン。横山が、自分の足で歩んでいく。【宮崎えり子】<阪神近年の入寮>

 ◆14年岩貞

 元阪神監督野村克也氏の「野村の極意」など8冊の本を持ち込んだ。「納得できたところは取り入れたい」。

 ◆13年藤浪

 大阪桐蔭時代から愛用する、やや大きめの布団を持参。敷布団220センチ、掛け布団230センチで、197センチの藤浪が寝ころんでも問題なし。

 ◆12年伊藤隼

 大相撲の立行司、第36代木村庄之助が「努力に勝る天才なし」としたためた額縁や、慶応義塾の故小泉信三塾長の言葉「練習は不可能を可能にス」と書かれた色紙など。

 ◆12年西田

 ディズニーの人気キャラクター「ダッフィー」のぬいぐるみを4個。さらに有名ブランドのハンドクリーム、香水まで持参し周囲を驚かせた。

 ◆11年榎田

 持ち込んだグラブは5個。社会人時代の2個に加え、3個を新たに準備した。