あこがれの人と初対面を果たした。日本ハム栗山英樹監督(53)が13日、ハンター界のレジェンドから数々の金言を授かった。知床半島にほど近い標津町を訪問。ヒグマ専門で伝説的な猟師、久保俊治氏(67)と念願の懇談が実現した。今季のチーム強化に生かせるヒントを得るための貴重なひとときを過ごした。オフを生かし、多種多様な課外授業を続ける指揮官。実り多き弾丸ツアーの1日に「潜入」した。

 長靴を履いていた。真っ赤なダウンコートに身を包んだ。栗山監督は、道東の標津町へ向かった。対面を熱望していた久保氏とのマッチアップが実現した。標津町に到着。午前中は養老牛温泉でシマフクロウを探し、近隣散策でウオーミングアップ。午後1時過ぎ、至極の「講義」へ臨んだ。

 白髪をポニーテールにまとめた、風格十分の初老の男性。久保氏が自宅で出迎えてくれた。通常のヒグマ猟は集団だが、単独で行う唯一無二のスタンス。約70頭を仕留めてきた実績を持つ。その世界では「神」のような人物だ。

 野球と狩猟。シンクロする部分を見つけるため、質問攻めにしていった。

 栗山監督

 野球を命がけでやっている。でも覚悟が足りない気がするんです。

 久保氏

 よく選手も「楽しんで」って言いますけれど、その言葉は間違い。振り返った時に「楽しかった」というのが本当だと。

 明快なQ&Aが続く。

 栗山監督

 猟は仕事…。

 久保氏

 違います。仕事じゃないからできる。好きだから、ですよね。好きでやっているんだから一生懸命できる。

 栗山監督

 少し理解ができた気が…。野球を仕事と思ったら違うモノになる。

 今オフ。奈良・東大寺の長老に会いに行った。道内の他分野のトップランナーたちとも、プライベートで接触を図った。絵画もたしなんでいる。監督業の刺激を受けるため奔走する。この日の久保氏からも、趣ある言葉をもらった。

 久保氏

 ヤブの中にクマが入っていく。自分も入っていかないと巡り合えない。準備があるからいける。クマを撃つ。撃った以上は倒したい。だからイメージをして山を歩く。間(ま)の取り方も大事。クマがどの辺にいてとか、距離感をいかにつかめるかとか。

 栗山監督

 監督として選手に対してもそうですが、獲物とは命のやりとりをしますよね。どういう感覚なんでしょうか。

 久保氏

 命を奪ってしまってから、どう生かすか。ただ殺していたら、単なる殺りくになりますから。野生であれば、それはほかのモノ(動物)に食われたりする。(獲物の)解体の仕方とか、そういうことを意識している。あと狩りはチームプレーで、猟は1人。

 栗山監督

 使い手の器量だと言われるのが、よく分かりました。少しでも生き方に近づけるように。久保さんのように、ブレずに歩めるように。やるからにはクマのように暴れます。

 ヒグマの冷凍した腰部分の肉。希少動物のシマフクロウの羽を2本、プレゼントされた。スーパー猟師の極意に少しは「潜入」できたことが、手みやげ。また型破りな自主トレを終えた。【高山通史】<栗山監督弾丸ツアー・ドキュメント>

 ◆午前5時30分=起床「いつもよりちょっと早いくらい。全然、平気だよ!」

 ◆午前8時=新千歳空港から中標津空港へ出発

 「いよいよだね」

 ◆午前9時15分=中標津空港到着

 「やっぱり空気が違うね」

 ◆午前10時10分=レンタカーで養老牛温泉に到着

 付近を散策して「湯宿

 だいいち」から野鳥観察。モーニングコーヒーをすすり、感極まる。シマフクロウの写真に興奮。「カッコいいなぁ、シマフクロウ。王者って感じ」

 ◆正午=標津町内の郷土料理店でランチ

 名物「海の香(うみのか)ラーメン」で腹ごしらえ。地元の名士から北海道シマエビを差し入れされる。「おいしい。さあ、行こうか」

 ◆午後0時40分=郷土料理店から久保氏宅へ出発

 途中で標津漁港へ立ち寄り、かすかに見える国後島を目に焼き付けて感動。「やっぱり近いんだね。こんなに近いんだ」

 ◆午後1時20分=久保氏宅へ到着

 歓談スタート。「お会いしたかったんです。やっとお会いできました」

 ◆午後3時30分=久保氏宅を後に

 リビングに飾ってあるキツネの毛皮が、久保氏の娘が幼少時にぬいぐるみにしていたと聞き、驚嘆。「やっぱり環境だよね」

 ◆午後4時40分=中標津空港到着

 ◆午後5時55分=新千歳空港へ出発

 弾丸ツアーの帰路に就く。「来てみて良かったよね。楽しかった。オレ、こういうの好きなんだ。北海道に住んでいることが当たり前で、こういう良さを知らないことがあるから」