豪快なアーチを沖縄の空に架けた。7日、DeNA沖縄・宜野湾キャンプを訪問中の松井秀喜氏(40)がフリー打撃に登場。中畑清監督(61)からの熱烈な“ごり押し”オファーに最高の形で応え、詰め掛けた4000人の観衆を喜ばせた。ゴジラフィーバーに沸いた3日間を見事な1発で締めくくり、今年の国内でのキャンプ訪問を終了。今日8日に沖縄を離れる。

 待ち望んだ瞬間は22球目に訪れた。巨人時代の同僚、高橋からの1発は現役時代をほうふつさせる、きれいな放物線で右翼席へ。松井氏は大歓声と指笛が鳴り響くスタンドに手を上げて応えた。「せっかくお客さんがたくさん見に来ていただいたので、1本だけでも打ててよかったです」。28スイングでアーチは1本のみでも、ファンにとっても選手たちにとっても、最高のプレゼントになった。

 前日まで中畑監督からのしつこいくらいのオファーにも、固辞し続けてきたフリー打撃。それでもバットを握った。松井氏は「中畑監督からのごり押しですね。それだけです」と笑って理由を明かしたが、限られた時間の中で準備をして臨んだ。球場入り前。メーン球場での投内連係プレーの練習中に、報道陣のいない室内練習場でひそかに振り込んでいた。「10分ぐらいだよ。ウオーミングアップしないとケガしちゃうから」と素っ気なく明かしたが、中途半端なスイングをファンに見せるわけにはいかなかった。投手役を務めた高田GMも「これまで全然練習をしていなかったんだから。普通は本塁打なんて打てないよ。それを打っちゃうんだから。さすがだね」と、感嘆する姿だった。

 初めて経験する所属チーム以外のキャンプ。多少の不安はあったが「温かく迎えてくれて全てがやりやすかった。皆さんのおかげで楽しかったです」と充実感だけが残った。練習終了後に行われた即席の“青空サイン会”はその感謝の表れ。本塁打が1本に終わったからではない。フリー打撃開始前に、松井氏が自ら提案していた。集まった207人の子どもたちと触れ合い、忘れられない宝物も贈った。

 中畑監督は松井氏の訪問前、「あいつには球界全体に恩返ししてほしいんだよ」と言った。巨人でもヤンキースでもDeNAでもない。枠を超え、野球界を支えていく存在になってほしいという願い。松井氏はその思いに応えた。「3日間、たくさんの方が(球場に)来てくださって。喜んでくださったのであれば、うれしいですね」。“ゴジラ上陸”で沸いた3日間。恩返しへの第1歩は、大きな足跡として刻まれた。【佐竹実】