「中京の怪物」が覚醒した。田中恒成(19=畑中)がWBO世界ミニマム級王座決定戦(5月30日、愛知・パークアリーナ小牧)で、同級1位フリアン・イエドラス(27=メキシコ)に3-0で判定勝ちし、プロ5戦目の日本人最速で世界王者に上り詰めた。

 勝利後は、派手なガッツポーズも涙もなかった。インタビューも、格好をつけるわけでもなく、三枚目的なものだった。「リングからどんな景色が見えるかなと思ったけど、目が悪くてよく見えません」「この勝利はみなさんのおかげと、僕のおかげ」と言って、観客を笑わせた。

 普段から髪形やおしゃれにこだわる様子もなく、のんびりした雰囲気の19歳。だが、ボクシングでは“別人”になり勝利への執念を見せる。中京高校での最後の試合だった3年時の夏のインターハイ。準決勝で審判1人はフルマークで支持しながら、残り2人が1点差で相手優位とし判定負け。接戦での敗北に納得いかず、3位で得た表彰状を控室で何度もクチャクチャにした。元東洋太平洋王者の石原英康監督が、拾い上げてきれいに直しても、それをまた見つけると再びクチャクチャにした。

 当時から目の前に強敵が現れると闘争心が高まり、ギアが1段階、2段階と上がったという。そういう時は、セコンドの石原監督にもタメ口になった。ぶっきらぼうに「アドバイス(くれ)」と言い、水をあげると「もういらん」とはき捨てたこともあったという。

 「今でも正しい行いとは思わないけど、負けたくない思いが異常に強いんです。でも、試合が終わると『ありがとうございました』ってちゃんと礼をするんですけどね」と、同監督は苦笑する。狂気寸前の闘争心で敵をねじ伏せたかと思えば、直後に観客を笑わせるユーモアもある。「日本で一番多くの人に、応援してもらえるボクサーになりたい」。そんな田中のギャップに、心奪われるファンは増えそうだ。【木村有三】