経験が生きた。WBC世界バンタム級王者・山中慎介(32=帝拳)が、9月22日に9度目の防衛を果たした。前WBA同級スーパー王者アンソレモ・モレノの老練なディフェンスに苦しんだが、終盤に逆転。2-1の判定で辛くも勝利を収めた。互いに決定打を許さない展開だっただけに、大きな意味を持ったのが、WBCが採用する「公開採点制度」だ。

 立ち上がりから息詰まる技術戦だった。ジャブで間合いを探り合うも、両者ともに決定打は許さない。4回終了時の採点は38-38、39-37、39-37で山中の2-0。だが、会場には山中が得意とする左がことごとく空を切っているという不安感も漂い始めていた。

 ここからモレノがペースをつかむ。力感はないが、ジャブ、アッパーを細かくヒット。上体を柔らかく使う鉄壁の防御でさらに王者を空転させた。8回が終了。今度は76-76、76-76、75-77でモレノが支持された。「山中が負けるのか-」。採点がアナウンスされると、客席はざわついた。残るラウンドは4回。ジャッジ3者がすべて同じ採点だったと仮定すると、山中は2回を取れば0-1のドロー防衛となるが、3回を取られると負ける計算だ。

 だが、山中は冷静だった。試合翌日の会見で、公開採点について聞かれ「ずっとそのルールで戦ってきている」と経験を強調した。焦ってもおかしくない場面だったが、採点を聞き「ここからが勝負」と腹をくくれた勝負勘と、世界戦10試合目というキャリアが勝利につながった。結果的には9回こそ取られたものの、10~12回をほぼフルマークで奪取。115-113、115-113、113-115で薄氷の勝利をつかんだ。

 4500人超満員に膨らんだ会場は、ラウンドを重ねるにつれ、異様なムードに包まれた。代名詞の派手なKOこそならなかったが、ファンにとっては語り合うシーンの多い、内容の濃い一戦だったと思う。【奥山将志】