元2階級王者の長谷川穂積(34=真正)が、鮮やかに復活した。WBCスーパーバンタム級9位オラシオ・ガルシア(24=メキシコ)を3-0の大差判定で下し、再起戦を勝利で飾った。昨年4月の世界戦で敗れて引退を覚悟したが、今年1月に現役続行を表明。4月末に痛めた右足首は靱帯(じんたい)断裂の大けがだったが、気力で強敵を撃破。世界再挑戦へ、再び光が見えてきた。長谷川の戦績は39戦34勝(15KO)5敗となった。

 長谷川が、持てる力のすべてを出し尽くした。4月末に捻挫した右足首は、靱帯が一部断裂していた。痛み止めの注射も最後は効かなくなった。それでも、耐えた。踏ん張った。最終10回、迫ってくる相手に必死のパンチで逆襲した。ジャッジ3人の点は100-91、98-93、97-93で大差判定勝ち。「怖かったです。勝てると思ってなかった」と言って観客を笑わせた後、「応援が力になりました」と頭を下げた。

 昨年4月、3年ぶりに実現した世界戦に敗れ、気持ちは引退へと傾いた。だが、すぐに決断できなかった。迷いの中でジムワークを始めると、ボクサーの血が騒ぎ出した。「今引退すれば、死ぬ時に後悔する」。今年に入り、もう1度リングに立つ覚悟を決めた。相手の強さを伝えるビデオを見た長女穂乃ちゃんから「やめて」と懇願されたが、振り切った。

 道のりは厳しかった。昨年末に左肘を痛め、左ストレートに力が入らず苦心した。右のパンチしか練習できない日もあった。この日は、右足首に加えて左肘にも痛み止め注射を打った。満身創痍(そうい)の体で成し遂げた復活劇だった。

 足を使って、巧みに相手のパンチもかわす技も見せた。万全には程遠い状態で世界ランカーを破り「そういう意味では自信になる」とうなずいた。進退を懸けた戦いを制し、再びの世界ランク入りは確実。今後については「何を求めてやるのか、分からない。試合を見直して考える」と慎重だが、世界再挑戦へ光が見えたのは確か。長谷川は、まだ終わってはいなかった。【木村有三】

<長谷川の最近1年>

 ▼壮絶KO負け 昨年4月23日、3階級制覇をかけてIBF世界スーパーバンタム級王者マルティネスに挑戦も7回TKO負け。右眼窩(がんか)底と鼻骨骨折の疑いで、病院に直行。

 ▼退院 試合から一夜明けた同24日、神戸市内のジムを訪れ「また、あらためて会見しますのでよろしくお願いいたします」と引退を示唆。

 ▼ジムワーク再開 同7月からジムで体を動かす。10月には日本ランカーとスパーリングも敢行。進退について「まだ何も決まっていない。1年くらいゆっくりしたい」。

 ▼初マラソン 同10月26日に大阪マラソンに出場。「僕に気づいた人のほぼ全員が応援してくれた」。

 ▼ランク外 同11月27日に5位だった日本スーパーバンタム級ランキングから外れる。

 ▼現役続行 今年1月14日、ジムの新年会で「今は引退のタイミングではない」と現役続行を表明。

 ▼再起戦発表 3月16日に、再起戦相手がガルシアに決定。「心配している人に『やっぱり強いな』という姿を見せたい」と語る。