元王者山中慎介(35=帝拳)が前日計量の大幅な体重超過で王座を剥奪された前王者ルイス・ネリ(23=メキシコ)と、因縁の再戦に臨んだが2回TKO負け。2回までに4度のダウンを奪われ、昨年8月にV13を阻まれた雪辱を果たせなかった。試合後に「これで終わりにします」と述べ、神の左と称された左拳を武器に5年9カ月にわたり世界王者であり続けたボクサー人生に終わりを告げた。

 怒り、喪失感が両国国技館には満ちていた。山中がリングから四方に深々と礼をして去った後、残って喜ぶネリには「帰れよ!」の罵声も飛んだ。南京都高、帝拳ジムでも後輩のWBA世界ミドル級王者村田諒太は「勝者なきリングはダメだ」と憤った。ネリの手にベルトはない。前日計量の体重超過ですでに剥奪され、王座は空位となった。

 階級制では数百グラムの違いもパンチの差に出る。だからこそ、17階級で細かく制限体重が設けられる。最低限のルールも守れずに、減量を最初から断念したかのような態度でもリングに上がれる現実。興行をつぶさないことが優先で、テレビ局の都合もある。だが、勝者はいない。絶対的不利にも、勇猛に挑んだ山中には感銘を受けるが、ネリへの罰の軽さは競技の根幹を揺るがす事態だ。

 ネリにはWBCから6~9カ月の処分停止が科される見込みだが、甘い。ファイトマネーも支払われる。主要統括4団体に共通の処分規定はなく、4団体あるからこそ剥奪されても、次のチャンスがある。世界的に同様のケースは後を絶たない。2年間の停止や、ファイトマネー没収などの厳罰がなければ今後も続くだろう。

 日本ボクシング史に残るボクサーの最後には、あまりにも禍根が残る結末。統括団体などが重く受け止め、改善への契機となることを願う。【阿部健吾】