<プロボクシング:全日本新人王戦>◇5回戦◇21日◇東京・後楽園ホール◇全12階級
「ホームレス・ボクサー」が全日本新人王を獲得し、11月の東日本新人王決勝戦に続いて大会MVPに選ばれた。フェザー級の斉藤司(18=三谷大和スポーツ)は渡辺巧(中日)との壮絶な打ち合いを制して、3-0の判定勝利。小学6年で両親は離婚し、家族がバラバラになった。極貧生活を抜け出すため、プロになることを決意。10月に父富士男さん(享年45)が死去したショックを乗り越え、夢の世界王座への1歩を刻んだ。
亡くなった父のため、リングサイドで見守る母のため、負けられなかった。勝利のアナウンスを聞いた斉藤は10月に亡くなった父富士男さんの話を始めた。「死をみとることはできなかったが、天国にいる父に、いい試合を見せることができた」。控室の通路では父の遺影を持つ母駒枝さん(55)と抱き合った。
激闘だった。初回にはバッティングで右目上を切った。2回には鼻血を出す。4回には右カウンターをもらってぐらつくも、すぐに反撃し、逆に相手を右ストレートでダウン寸前に追い込んだ。「背負っているものが違うんで」と恵まれない境遇によるハングリー精神が土壇場で生きた。
5人兄弟の4男だったが、小学6年のとき、亡くなった父の暴力で両親が離婚し、家族は崩壊した。その後、母駒枝さんとの生活は困窮。きな粉をおかずにご飯を食べることもあった。「ホームレス中学生どころじゃない。普通の人なら自殺してる」と斉藤。どん底の生活の中で、拳1つで金を稼ぐ覚悟を決めた。小学6年で三谷大和ジムに入り、中学2年から千葉県内の同ジム2階に住み込んだ。
亡くなった父富士男さんのことは恨んでいた。だが、ホームレスだった父は10月に千葉県内の公園で病死。「たった1人の育ての父親だし、いい思い出もあった」。音信不通だったが、プロボクサーになったことは知っており、試合も見たがっていたことを人づてに聞いた。「生きていれば今日、会場に呼びたかった。いつか一緒に住みたかった」と遠くを見るように言った。
全日本新人王獲得で、日本ランキング入りも決定。三谷会長によると、3年計画で日本王者、そして世界挑戦を目指すという。「新人王は通過点。まだ課題もたくさんあるけど、世界王者になって、金持ちになって、家族を幸せにしたい」。18歳にして地獄を見てきた「ホームレス・ボクサー」は将来の夢を見据えた。【田口潤】

