左膝のけがを押して強行出場している西前頭9枚目の遠藤(24=追手風)が、待望の大銀杏(おおいちょう)初白星を挙げた。同じく勝ちがない東前頭12枚目の荒鷲(28)を寄り切り。我慢の出場が7日目で実った。

 勝ち名乗りを告げる行司木村寿之介が、遠藤を向いた。その瞬間、満員札止めの館内で、割れんばかりの喝采が起こった。全治約2カ月と診断された左膝のけがから65日。14本の懸賞を右手でつかんだ。苦しんでつかんだ白星に「良かったです」と、静かに答えた。

 何度も振り回された。荒鷲に両腕をたぐられ、頭を押さえられて小手にも振られた。だが、痛めている左脚でなく、右脚で前に出て踏ん張れた。これが鍵だった。懸命に伸ばした右手が、今場所初めてまわしに届く。命綱の上手。勝負だと前に寄った。その瞬間、相手の右足が俵を割った。15秒1の相撲は、この日の幕内最長。土俵下、両膝に手を置きかけた瞬間、思わずよろけた。「気持ちです」。勝因を、そう表現した。

 痛みが最大となったのは、春場所5日目にけがした直後ではない。その夜だった。膝が固まり、朝には曲がらなくなった。軽傷かもという希望が飛んだ。「雑誌を読んだり、携帯をいじったり、テレビを見たり。膝のことは何も考えなかった」。考えられなかった。

 夏場所への意欲がぶれ始めたとき、手を尽くしてくれたのが師匠だった。追手風親方(元前頭大翔山)がさまざまな専門家を紹介。通常の治療以外に「怪しいと思われるかもしれないが」(親方)と「気功」にもすがった。頼れるものは全て頼った。その上で、どこまでできるかという挑戦。15分の1とはいえ、その「1」は大きな1勝だった。

 今日17日は永谷園が定めたお茶漬けの日。大銀杏版のCMも次第に放送が増えてきた。幕内残留の目安まで、あと3勝。「1日1番、頑張ります」。白星が良薬となる。【今村健人】