横綱鶴竜(29=井筒)が新大関照ノ富士(23)をすくい投げで下して、1敗を守った。2場所連続で全休している間に大関に昇進した相手を、力と技で巧みに退けた。横綱白鵬(30)もかど番の大関琴奨菊(31)を下して1敗をキープ。2敗がいなくなり、優勝争いは両横綱のマッチレースの様相を呈してきた。

 力を、出し切った。乱れた息。鶴竜はゆったりと歩いて呼吸を整えた。40秒2の熱戦。3場所ぶりに復帰して、一番長い相撲だった。「立ち合いからの流れが良かった。中に入れたので、それが一番良かった」。照ノ富士の粘りを退け、1敗を守った。

 全休中に生まれた新大関。過去3戦全勝だが「この2場所で力をつけている。前のイメージは持たない方がいいかもしれない」。最強の敵と位置づけて攻めた。もろ差しになり、中に入る。力でつり上げてくる相手に足を掛けながら寄った。土俵際に追い詰め、7度も腰を寄せる。寄り切れないとみるや、最後はすくい投げ。「重かった。さらに残り腰が強くなっていた」と苦笑いしたが、終始攻めた。横綱の意地だった。

 3場所ぶりの名古屋場所。実は夏場所で出ようとした。だが、完全には程遠かった左肩。周囲に止められ、我慢した。そして乗り込んだ、宿舎がある愛知県東浦町。一山越えると、辺り一面に田んぼが広がる。その風景に目を奪われた。

 「モンゴルみたい」

 夏。幼少時代は2週間、田舎の草原を回って、川釣りを楽しんだ。シーバスなど釣った魚を食べる。テントに寝泊まり。楽しかった記憶が思い浮かび、心も癒やされた。充実した場所は、こうして生まれた。

 1敗を守り、白鵬と並ぶ。2場所以上全休後の場所で優勝すれば、89年初場所の横綱北勝海以来。だが「今日は終わったので、明日に集中していきたい」。鶴竜は目の前の一番しか、見ていない。【今村健人】