横綱白鵬(31=宮城野)が、自身の最多記録を更新する37度目の優勝を決めた。横綱日馬富士(32=伊勢ケ浜)を寄り切り、無傷の14連勝。直後に1敗で綱とりの可能性もある大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が敗れたため、千秋楽を前に賜杯レースが決着した。14日目までに優勝を決めるのは16度目で、千代の富士を抜き歴代単独1位。横綱昇進から10年目を迎える名古屋場所(7月10日初日、愛知県体育館)では、史上3人目の通算1000勝を狙う。

 目の前で稀勢の里が鶴竜(30=井筒)に敗れる姿を見届けると、白鵬は笑顔で花道を引き揚げた。ライバルが敗れて、自身の優勝が決まるのは13年夏場所以来3年ぶり。「最近は覚えがないような…。今までは自分が勝って優勝というのが多かった」。千秋楽を待たずしての優勝は、昨年初場所に13日目で決めて以来。両国での優勝も1年半ぶりで「優勝は優勝ですから。素直に喜びました」と感慨にふけった。

 直前の取組では日馬富士に勝利。相手十分の右四つで振り回されたが、寄りを残すと右で振ってまわしを切り、一気に寄り切った。支度部屋では「水がうまい! ジュースみたいに甘い」。激闘を制した体に染み渡る感覚を堪能した。

 今場所序盤は駄目押しにも見える行為を連発して物議を醸した。荒っぽいかち上げも連発し、9日目には勢(29=伊勢ノ海)を一発KO。強い横綱だからこそ周囲の目は厳しいが、13日目に稀勢の里の挑戦をはね返して一気に優勝への流れを作った。

 大鵬の優勝記録を更新して目標を見失いかけた頃、忘れられない言葉に出会った。「柔道の王者になれなくても、人生の王者にはなれる」。203連勝したロス五輪柔道金メダリストで、親交のある山下泰裕氏(58)が恩師に言われた話に、共感した。白鵬も「相撲道で学んだものを、長い第2の人生でどう生かすか」と模索中。最近はやぐら投げや猫だましも繰り出し、稀勢の里戦はあえて相手得意の左四つで組んだ。1人旅でも、幅を広げる努力を怠らない。それが他の追随を許さない秘密でもある。

 今、新たな目標がある。「やっぱり、1000勝というのが、私を別人にしてくれたかもしれない」。連勝も28に伸ばし、史上2人しかいない大記録まで、あと14勝。最高の形で、横綱として10度目の名古屋場所を迎える。「まだ終わってないんでね。とにかく、一番一番」。大横綱は、確かな足取りで歩みを進める。【桑原亮】

<今場所の白鵬>

 ◆初日 魁皇に並ぶ幕内最多879勝目。支度部屋ではご機嫌でポーズも。

 ◆2日目 宝富士を下して幕内単独最多880勝目も、土俵を割った相手に駄目押しとも取れる一押し。ばつが悪かったのか、すぐに手を差し伸べた。

 ◆4日目 正代に駄目押しともとれる行為で物議を醸す。

 ◆5日目 魁聖を完全に寄り切った後、さらにもう一押しで土俵下に落とす。

 ◆6日目 朝稽古前に同じ伊勢ケ浜一門の友綱審判部副部長のもとを訪れて謝罪。

 ◆8日目 琴勇輝を押し出した直後、背中を向けた相手に猛然と詰め寄ったが間一髪で自制する。

 ◆9日目 強烈な右かち上げで勢を一発KO。

 ◆13日目 稀勢の里との全勝対決。あえて相手得意の左四つで組んで勝利し、綱の貫禄を示す。

 ◆14日目 37度目の優勝が決定。