大関稀勢の里(30=田子ノ浦)の綱とりが、つながった。大関豪栄道を押し出して12勝目を挙げた。優勝は1差で逃して今場所での横綱昇進はないが、昇進を預かる審判部は秋場所(9月11日初日、東京・両国国技館)に持ち越すことを明言。3場所連続で綱とりに挑む。

 勝てばよいよい、負ければ地獄。そんな緊張の一番で、稀勢の里は力強い相撲を取り戻した。巻き替えようとした豪栄道を、左からの強烈なおっつけで後ろ向きにした。みなぎる力で、土俵外に追いやる。綱へ、重要な12勝目を挙げた。

 「最後にいい感じで締めくくれた。最後は良かったですね」。続く結びで日馬富士が勝ったため、賜杯にはまた届かなかった。だが、負ければ振り出しに戻る窮地をはねのけた。二所ノ関審判部長(元大関若嶋津)は「来場所につながって良かった。1差だからね」と綱とり継続を明言した。

 取組前、審判部で昇進問題が議論された。ここ3場所の安定感を評価し、12勝すれば優勝を逃しても…という声があった。一方で、13勝の翌場所が12勝と下がることに「優勝しても足りない」という意見も出た。最終的に落ち着いた結論は「優勝すれば」。二所ノ関審判部長は「今まで1回も優勝がない。優勝は一番(の条件)」とした。分かりやすい「最低基準」が決まった。部長は来場所も「まず優勝。白鵬が落とすこともないから(自然と)13勝、14勝になる」と定めた。

 30歳になって最初の場所は平幕に2敗し、4度目の挑戦もかなわなかった。だが、連敗はなかった。「先場所の課題だったからね。良かったです」。春、夏場所と横綱戦で連敗して賜杯を逃した。今場所は負けても気持ちを立て直した。「力はまだまだつくと思う。これからどんどん良くなってくる。そういう意味で、毎日楽しみですよ。楽しく稽古場にいれますしね」。

 13、13、12勝と大崩れはしなくなった。あとは突き抜ける強さだけ。望みはつながり、5度目の挑戦を迎える。「いつもより記者の数がすごいからね。体はまだまだいけるけど、ちょっと休ませてほしいな」と笑わせた。その明るい表情が、これまでとは違う姿に見えた。【今村健人】