大相撲の横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が、名古屋場所(9日初日、愛知県体育館)に向けて復活の手応えをつかんだ。愛知県長久手市の田子ノ浦部屋で5日、大関高安と10番取って全勝した。稽古で全勝はもちろん、最初の相撲で負けなかったのも名古屋入り後、初めて。前日に動画で撮影して立ち合いを確認した成果で、高安をうならせる踏み込みの圧力をつかんだ。

 少しも下がらない。全く押されない。馬力勝負になろうが、のど輪で突き起こされようが。稀勢の里は終始、高安を圧倒した。稽古とはいえ、名古屋に入ってから計47勝38敗と互角に近かった新大関相手に10戦全勝。復活を印象づける内容に「いいんじゃないですか。いい感じで調整できた」と納得の表情を浮かべた。

 踏み込みの鋭さが全てを循環させた。圧力で勝ることで右上手を引くのも早く、高安に左を差させない。突き放しに来られても、上体が起きていないから重い腰は動かない。回り込もうとする相手に、体も寄る。「(右上手を)引けなくても対応できた。そこが一番大きい」。これまで、負傷の影響がある左腕と反対の「右腕」の使い方を模索してきた。その光が見えた。

 相手を務めた高安はきっぱりと言った。「僕は調子はいいという手応えは十分ありました」。それだけに「横綱の当たりが強かった。結構、全力で当たったけど、それでも全然、押し込めなかった」。馬力自慢の新大関が感じた横綱の変化。それは前日にあった。

 前日の稽古後、付け人に動画で立ち合いの形を何度も撮影させた。「自分の中で思っていることと、見ている感じは違いますから。確認したら全然違ったからね」。1回ごとに再生し、修正する。時間にして30分。延々と同じ作業を繰り返した。形や角度。「少しのことで変わりますから」。