[ 2014年6月26日7時52分

 紙面から ]<W杯:日本1-4コロンビア>◇1次リーグC組◇24日◇クイアバ

 奇跡は起きなかった。コロンビアに完敗し、1次リーグ敗退が決まった。優勝を公言し、自身2度目の大舞台に立った日本代表FW本田圭佑(28=ACミラン)。1勝もできずC組最下位とたたきのめされ、早々と大会を去った。

 残りはまだ10分近くあった。それなのに3点目を取られると本田はうつむいた。両膝に手をやり動きを止めた。勝って奇跡を信じるしか道はなかった。2点差は絶望的。それでもキックオフから抵抗、せめてもがくことくらいはできた。それをしなかった。

 はってでも押しのけてでも、前へ前へと進んできた。それをやめた。存在理由でもある信念が一瞬、消えてなくなるほど衝撃的な現実に直面した。世界一へ、道半ばどころか勝利で1歩を踏み出すことさえできなかった。こうべを垂れ、試合終了を待たず自ら終わりにした。エースの許されざる振る舞いだった。

 「非常にみじめですけど、これが現実なんで。優勝とか言ってこの結果。口だけで終わってしまって非常に残念」

 結果、一番嫌うビッグマウスで終わった。サッカー少年だった幼いころ、あこがれたのは父とビデオで見たボクシングの伝説ムハマド・アリ。フットワークやパンチでなく、生きざまが気になった。大きなことを言う。時に相手を挑発する。周囲を巻き込みながら最後はリングで主役になる。その発言力と実現力。まねし参考にしたわけではないが、記憶のどこか深い部分にすり込まれていたのだろう。同じ世界一を目指した旅。自然と似たアプローチになった。英雄にはなれず、残した結果もまったく違うものになったのだが。

 アリはブランクを乗り越え世界王者に返り咲いている。本田にもサッカーしかない。よく「俺はね、サッカーという人生で最も不得意なことで世界一になろうとしている」と言う。本音は違う。得点できず吐き気が止まらなかった日もある。繊細で家族にさえ見せない弱い自分をよく分かっている。だから言い聞かせるように強い自信をあえて口にし、肩肘張って必死に、必死に突っ張ってきた。

 奇跡を起こすはずだったピッチでその重荷を1度下ろした。というより、ひっぺがされた。ACミラン入り直前には頸部(けいぶ)を手術するなど、コンディション調整にも苦しみ臨んだ2度目のW杯。取材エリアでは今にも涙がこぼれ落ちそうな目を見開き、胸の内をさらけ出した。「自分にはサッカーしかないし、自分らしくやっていくしかやり方を知らない」と。

 自分らしく-。「W杯優勝」「世界一」は日本でだれも口に出すことさえしなかった20年近く前、さえない小学生だったころから言い続けている。目標は今も、ここまでたたきのめされても「W杯優勝」だ。

 「(目標を)変えないと言ったら『何言ってんだ』という話になるんですけど俺はこの生き方しか知らないし、自分らしく生き続ける。少なくとも明日からもサッカーできるチャンスがあるというのは、すごい幸せなことだし、本当にサッカーに感謝しないといけない。強気しか、道はないと思います」

 試合終盤に自ら戦いをやめてから約30分がたっていた。諦め、ほんの少しだけ休んでしまった。だが今はもう、4年後、縁あるロシアで開催されるW杯に向け走りだした。もう絶対に止まらない。【八反誠】