若手注目株の中で、イケメンぶりより演技力が勝っている俳優を挙げるとすれば池松壮亮(25)菅田将暉(23)染谷将太(23)あたりになると思う。

 そのうちの池松と菅田が初めて本格共演したのが映画「セトウツミ」(大森立嗣監督、7月2日公開)だ。

 原作は「別冊少年チャンピオン」に連載中の此元和津也氏のコミックで、ウイットに富んだセリフと間で笑わせる。だが、映像にしてみれば、川っぷちの階段に座った2人の高校生がひたすら会話を交わす構図である。

 動きは少ない。表情とセリフの抑揚で、観客を笑わせ、ときにしんみりさせなければならない。まさに2人の技量が試される作品といえる。

 携帯CMの「鬼ちゃん」ですっかりおなじみなった菅田は元サッカー部でちょっとやんちゃなお調子者、瀬戸にふんしている。鬼ちゃんキャラもかぶって持ち味を生かしやすい役柄だ。大阪弁のやりとりに大阪出身というホーム感もある。

 対する池松はメガネをかけ、塾通いもしている成績上位のクールな内海。ドラマ、映画の「MOZU」シリーズ(14年~)で見せた「女装の殺し屋」のように突き抜けた演技とは対照的に感情の起伏を抑える難しいキャラクターだ。福岡出身で「(大阪弁が)おかしいやん! って言われそうだから大阪だけは公開してほしくない」とアウェーの認識もある。

 このホーム、アウェーの攻守のやりとりがこの作品のミソになっている。ひたすら伸び伸びと演じる菅田に対し、池松は「MOZU」の狂気の代わりに優等生の知性と余裕を瞳の奥に宿し、硬軟のメリハリが映像からにじんでくる。

 漫才のように直線的に笑いを誘うわけではないが、日常会話で微妙に話題がずれていくところに、あるある感が満載である。内海の言葉は高校生とは思えないウイットに富み。瀬戸のいかにも付け焼き刃な絡み方が笑いのタネになる。

 意外なことに、当初撮影現場で2人はまったく口をきかなかったという。「2人ともそっぽ向いていて、ホントにどうなるんだろうと思いました」と大森監督は振り返る。微妙なライバル心があったのだろうか。池松は「これまで3本、一緒に出たことあったんですけど、しっかりやるのは今回初めてでしたから。それにしゃべることがそんなにあるわけではないから」と微妙な心理を明かす。

 それでも、うち解けるのにそれほど時間は掛からなかったようだ。完成披露の舞台あいさつでは息のあったところを見せ、そこで語られたエピソードからは撮影現場のフレンドリーな空気をうかがえた。

 石の階段に座りっぱなしの撮影で菅田が「お尻にくる」と訴えたところ、リハーサル中に敷けるようにと、スタッフが座布団を買ってきたという。「でも、あれあんまり効果無かったね」と池松。「百均で買ってきたそうだから」と菅田が続けると「やっぱり予算無いからね」と池松が締めた。座布団共闘のひと幕である。

 試写室では2人の先輩格の人気俳優Mがたまたま1人置いた隣に座っていたのだが、からからとよく笑っていた。2人の絶妙な間合いは先輩俳優のツボにはまったようで、思わず誘われてこちらの笑いの回数も増えた気がする。

 「やんちゃでちょっと足りない男」という決定的な得意技を持った菅田とオールマイティの技巧派、池松。好対照の2人は今後も引く手あまただと思う。次の競演が楽しみだ。【相原斎】