今年も競争率26・1倍の難関だった宝塚音楽学校。105期生として創業者一族で松岡修造の長女、17歳の松岡恵さんが合格し、注目されたが、一体どんなところか-。

 予科、本科と2年にわたり、昼間は授業で洋舞、日舞、和楽器演奏、ピアノ声楽、演劇などを学び、夜は個人レッスンで技術を磨く。厳しい学校生活だが、同時に徹底的に礼儀作法をたたきこまれる。“鉄の規律”を乗り越えて初めて、タカラジェンヌへと巣立っていくのだが、その厳しさは、往年の日本軍人も認めたほどだった。

 劇団出身の女優大地真央はかつて、取材にこう答えた。「中学のとき、将来は女優になりたいと父に言うと、猛反対されました」。父は職業軍人だった。

 「でも、父の戦友が宝塚を知っていて、勧めてくれて。『宝塚なら女の軍隊並みに厳しい規律があるから行っていい』と認めてくれたんです」

 大地や、その相手娘役を務めた黒木瞳らOGに聞けば、上級生は絶対優位。「先輩が白と言えば黒いものも白。予科生(1年目)だと、洗濯機も先輩が終わるまで使ってはいけない。校内で笑ったり、しゃべったりしてはいけない」。

 廊下、階段は壁面に沿って一列で歩き、角は壁伝いに直角に曲がることを「予科生歩き」とも呼ばれる。また、1人がミスをすれば連帯責任を負うのも特徴。元星組トップ柚希礼音などは「実家にいて、(同期の)連絡網電話がかかった後、私を見て、親は何かあったって分かったみたい」と振り返ったこともあった。

 また予科生は1年間、毎日、同じ持ち場を掃除する。髪の毛1本、ほこりひとつ、残さないように鍵盤は綿棒を使い、窓は絵筆、床は粘着テープを使う。その持ち場、実は成績順に決まっており、玄関など“顔”にあたる部分は、やはり成績優秀者が担当する。

 もはや今の時代、理不尽としか言いようがないような規律について、音楽学校の関係者に聞いたことがある。「すべて舞台人としての素養につながる。舞台は全員で作るもの。掃除の持ち場ひとつ、与えられた使命をそれぞれが果たすと、体をもって覚えるんですね」と言った。なるほど、舞台人としての考えを体にしみこませるわけだ。

 とはいえ、時代に則して校則も緩やかに変化はしているようだ。それでも阪急・宝塚駅で、電車にお辞儀をするグレーの制服の生徒一団は今もいる。もちろん、予科生で着席している者はいなかった。

 100年を超え、守られる鉄の規律。そう言えば先日、音楽学校生と思われる10代女子が、スマートフォンを操作しながら歩いていたのを見た。担当記者同士で「え? 歩きスマホ?」と驚き、すごく盛り上がったことがあった。

 普通に街を歩いていれば、いけないことだが、ありふれている「歩きスマホ」。それが衝撃に映るほど、徹底した規律の上に、100年を超える伝統が成り立っている。【村上久美子】

宝塚音楽学校105期生として合格し、在校生から祝福される松岡修造の長女恵さん(撮影・村上久美子)
宝塚音楽学校105期生として合格し、在校生から祝福される松岡修造の長女恵さん(撮影・村上久美子)