歌手藤圭子さん(享年62)は自らの歌のように寂しく旅立つことになるかもしれない。東京・西新宿のマンション13階からの突然の転落死から一夜明けた23日、前夫の音楽プロデューサー宇多田照実氏(65)が葬儀は行わず、家族だけで荼毘(だび)に付すことを明らかにした。たった1人の血縁となった長女の歌手宇多田ヒカル(30)は姿を見せていない。

 藤さんの遺体は東京・新宿署に安置されたまま一夜を過ごし、この日昼の午後0時15分、黒のワゴン車で同署の駐車場を出た。棺には白い布が掛けられ、車中ではジーンズに白いシャツ姿の前夫宇多田氏が3列目に座り、いたわるように右手をひつぎの上に置いていた。

 50分後、目黒区碑文谷の葬祭場に車が到着、建物裏口で宇多田氏が降りた後、正面入り口から藤さんの遺体を搬入した。宇多田氏は落ち着いた様子で足取りはゆっくりとしていた。取材陣には無言のままだった。

 搬入から1時間半経過した午後2時半過ぎ、葬儀社の男性が宇多田氏の伝言として次の3点を取材陣に伝えた。

 (1)故人の遺志により面会はご遠慮いただきたい。

 (2)葬儀は行わない。火葬のみとする。

 (3)出棺の日程は未定。

 葬儀社によると「ご遺体は安置されていますが、祭壇などは設けていません。ご家族だけが中に入ることになると思います」。1人娘の宇多田の面会については不明という。この日までに宇多田が藤さんの遺体と対面した形跡はない。所属レコード会社によると「活動停止の状態にあるため所在は確認できていません。今後の行動やコメントについても分かりません」という。

 宇多田のデビュー当時は親子3人のむつまじい姿も目撃されていたが、最近は母娘間で連絡を取り合っていた形跡はない。宇多田が連絡の取れない母親を心配していたとも言われている。

 藤さんが東京・新宿のマンション13階から転落し、争ったような跡がなかったことから、新宿署では飛び降り自殺と見て調べを続けている。国民的ヒット曲の歌い手の出棺の時期は、ただ1人の血縁となった娘との対面後とみられる。

 ◆藤圭子(ふじ・けいこ)本名・阿部純子。1951年(昭26)7月5日、岩手県一関市生まれ。69年9月、「新宿の女」でデビュー。70年「圭子の夢は夜ひらく」が70万枚のヒット。同年、アルバム「女のブルース」と「新宿の女」が1、2位を独占。この2枚で37週連続1位を記録。シングルでも「女の-」と「圭子の-」の2作で18週連続1位を記録した。71年、歌手前川清と結婚したが72年、離婚。79年には引退を表明して渡米。82年に宇多田照実氏と再婚し、83年に長女光さん(宇多田ヒカル)を出産した。86年に宇多田氏と離婚したものの、1カ月たたないうちに再婚するなど、離婚、再婚を6、7回繰り返した。