お笑いコンビ、ピースの又吉直樹(34)による、初の純文学作品にして初の本格的小説「火花」が、3月11日に単行本として発売されることが30日、文芸春秋から発表された。今月7日発売の同社文芸誌「文学界」2月号に執筆し、同誌を史上初の大増刷に導いた話題作。芸人界屈指の読書家が、今度は小説家として芥川賞も狙える?

 「火花」は、芸人の「僕」が主人公。「僕」を語り手に、先輩天才芸人の再起と挫折を描いている。400字詰め230枚の中編で、人間の根本を見つめた純文学小説だ。「文学界」の武藤旬編集長は「鋭い観察眼と独自の文体を持っている。普遍的なテーマ性と、ポピュラリティーを兼ね備えている」と評した。

 「火花」が掲載された「文学界」2月号は、発売翌日の今月8日に7000部増刷が決定。9日には2万3000部の再増刷も決定した。増刷自体、1933年の創刊以来初の快挙。又吉効果で、発行部数は、通常1万部程度の同誌史上最高の計4万部に達する“事件”となった。

 又吉は過去に多くのエッセーを執筆、12年4月には「別冊文芸春秋」に自伝的小説「そろそろ帰ろかな」を執筆したことがある。ただ、本格的小説の執筆や単行本化は初めて。「文学界」は、純文学新人を対象にした芥川賞作家を輩出しており、芸能人が小説を執筆するのは異例。単なる「タレント作家」ではない。

 10年に小説「マボロシの鳥」を発表するなど、文学通として知られる爆笑問題太田光は、27日のラジオ番組で「面白い。絶対に賞をとる」と「火花」を絶賛した。コピーライター糸井重里氏はツイッターで「じっくりたのしんで本気で読んだ。登場人物たちと作者に、好感が持てる」と書いた。

 相方綾部祐二とのネタで見せるシュールなボケも人気だが、小説好きな文学通芸人としても有名。又吉は「あほが書いた小説です。あほなりに人間を見つめて書きました。生きているとしんどいこともあります。そんな時、散歩したり本を読んだりすると、少しだけ楽になることがあります。誰かにとって、そんな本になればうれしいです」とコメントしている。

 ◆読書通

 又吉は芸能界きっての愛読家だ。太宰治、芥川龍之介らの文豪が好きと公言。これまで2000冊以上の本を読破したとされる。「太宰治ナイト」などの文学イベントも開催。エッセー本に11年「第2図書係補佐」13年「東京百景」などがある。書評やコラム、自由律俳句(定型がない俳句)、帯文なども多く手掛けている。中学の教科書で芥川龍之介「トロッコ」を読んで共感したことが読書好きになったきっかけ、と話したことがある。<芸能人と小説家活動>

 ◆劇団ひとり

 06年1月に第1作「陰日向に咲く」、10年に「青天の霹靂(へきれき)」を発表。ともに実写映画化。「青天-」は監督、主演を務めた。

 ◆爆笑問題太田光

 10年に「マボロシの鳥」12年に「文明の子」と小説2作を執筆。

 ◆NEWS加藤シゲアキ

 12年に小説「ピンクとグレー」を発表。13年「閃光スクランブル」14年「Burn.-バーン-」と年1作ペースで執筆。

 ◆水嶋ヒロ

 本名の斎藤智裕名義で発表した小説「KAGEROU」が10年、第5回ポプラ社小説大賞を受賞。累計発行部数は100万部を突破。