<釣りステーション>

 横浜市の第3管区海上保安本部で11月25日、ライフジャケット(ライジャケ)着用体験会が開催され、船長や釣り人ら21人が参加した。参加者は着衣のまま落水し、ライジャケ装着時と、装着しない場合の水の中での動きを確認。参加者全員が「釣りでライジャケなしは無謀」との認識を一致させた。屈強な海猿に会うために参加した27歳の女性ビギナーアングラーのリポートでお届けしたい。

 こんにちは、長谷川千保子と申します。都内で看護師をしています。

 釣りは今年から、行きつけの居酒屋のマスターに誘われて、お店の常連さんと一緒に2回ほど船釣りに行きました。タチウオ釣りだったんですが、魚って、ものすごい力ですね。「アタリ」っていうんですか?

 握っていたサオまで海中に持っていかれると思ってしまいました。

 そのときに新安浦「長谷川丸」から乗船したんですが、船長さんから「船で遊ぶ人は必ずライジャケ着てね。着ない人は乗せないよ」と。タスキのようなデザインの自動膨張式のライジャケでした。第一印象としては、私は泳げないし、こんなもので大丈夫なのかしら?

 と思ってしまいました。そんなことも思っていたので、今回はぜひ参加させていただきました。

 今回はタコボウズ記者さんが「屈強な海猿に抱かれてみないか?」と誘ってきたこともあるんです。映画にもなったし、海上保安庁の潜水士の方に興味もあって…イケメンばかり、って触れ込みだったし、ウフ。

 当日は女性も含めて、「つり情報」という専門雑誌の編集長とか、南伊豆・石廊崎の渡船「橋本屋」の船長とか、スゴい人がいっぱいでビックリ。準備体操をして、普段着のまま、プールにどぼん。水温は29度でぬるい温泉みたい。「橋本屋」山本一人船長は「今、南伊豆で17~19度ですね。晴れだと20度を超えますけど、今、29度みたいなぬるい感じではない」って。今、水没したら怖いですね。

 足のつかないところでライジャケがないと、人間は体積の2%しか水面の外に出ないんですって。だから、大の字になって「背浮き」するのがいいんです。私、泳げないけど、あれっ、浮いた、浮けるんだ。でも、そのままの体勢は、なかなか続かなくて、時間がたつと沈んでしまう。何もなくて海に浮かぶ、って無理です。

 水の中で2リットルの空のペットボトルを抱いて浮かんでみました。都合よく2つあれば両脇に挟んで浮けます。でも1つしかないときは、おへそのあたりで抱くといいですね。調子に乗って足のつかないところでペットボトルを手放したら溺れて海猿さんにギュッ、てしてもらえました。ただ、そのときは溺れる恐怖の方が強くて抱かれたことは、ほとんど記憶になくて…。

 さて、びちょぬれでプールから出たんですが、プールから上がれない。服の中の空気と水が交ざってとっても重い。固定のはしごで上がるんですが、体が鎧(よろい)でガチガチになった印象です。着衣のまま海に飛び込むと自由も奪われる。誰かが水没しても、飛び込んで救出しちゃいけないですね。服が水を吸うと凶器になるとは思いませんでした。

 ライジャケを装着して2メートルぐらいの台から飛び込んだんです。ちゃんと開きました。でも、とても深く潜ってしまって、水面から顔出せないかと。すぐに海猿さんに抱きかかえられて…でも、このときも必死であまり覚えていない。水の中で何もできなくて、もうパニック。でも、ライジャケはちゃんと“仕事”をしてくれて、開いてくれた。大事ですね、ライジャケ、釣りをするときは、着ます、絶対に。【写真・構成

 寺沢卓】

 ◆データ

 第3管区海上保安本部でのライジャケ着用体験会は、プールの改修工事もあって5年ぶりの開催となった。担当部署のマリンレジャー安全推進室では「釣り中の事故は10月から増加傾向にあって、1月まで多発している。今の時期がもっとも危ない」と話す。しかも、09年からの5年間で第3管区内の釣り中に海中転落した115人のうちライジャケ着用者は42人だけ。別表(※表1)にも示しているが、ライジャケを装着していると生存率も80%を超える。

 参加者からは「今後も続けてほしい。もっと多くの人に知ってもらいたい」という声や「水没したときに携帯は所持していない可能性が高いから、ライジャケが開いたときにGPS機能が作動するとか」「夜間だと怖いから反射材だけじゃなくて、ライトが点滅してほしい」などのアイデアも出てきた。