政務活動費の不正請求で議員12人辞職という異常事態に陥った富山市議会の補欠選挙(11月6日投開票)が30日、告示された。県議転出による欠員1と合わせ、13議席を新人25人が争う。1カ月余りの「辞職ドミノ」で明らかになった不正の総額は、3300万円以上。立候補者と向き合う市民には、怒りや失望など、さまざまな感情が交錯していた。記者が中心市街地に入り、生の声を拾った。

 JR富山駅南口には、県庁所在地の玄関口にふさわしいにぎわいがある。通行人の足を止め、市議会の話題を振ると、険しい表情を見せる市民が多かった。

 64歳男性 政治にはお金がかかると言うけど、政活費の不正はやり過ぎだね。保守王国の慢心が出た。今度の補選は、党の名前だけでは選ばない。ルールを守れる人を見極める。

 71歳主婦 市議会は情けないけど、今回の不正は昔から続いていたこと。他の地方議会も同じでしょ。補選では、領収書のネット公開とか、クリアにやってくれる人を選びたい。

 不正問題の発端は、4月の市議による懇談会だった。月60万円の報酬を引き上げる意見があり、審議会を経て、6月の本会議で70万円に増やす条例改正案が可決。論理立てた説明がなく、多くの市民が反発したことから、地元報道機関が議会の在り方を問い直すため、調査報道に力を入れた。そこで政活費を巡る不正が続々と判明した。

 64歳女性 市議の月給は一般市民より多いのに、10万円も上げようとしたことが許せない。不正をした市議は、全員逮捕してほしい。議員辞職や返金で終わらせてはダメよ。

 富山県内の地方選挙では、23日の県知事選と県議補選から、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた。今回の市議補選の注目度は高いが、若者の関心はいまひとつのようだった。

 19歳男性(専門学校1年) まだ社会に出ていないので、政活費の問題がどれくらい大変なことなのか、よく分からない。予定がなければ補選に行きますけど、何を基準に選ぶべきか、これから考えます。

 29歳男性会社員が「こんなことで全国的に有名になるのは困りますね」とこぼすなど、恥ずかしさを感じる市民も目立った。汚名を返上するには、情報公開度が全国一の市議会に変えるしかない。【柴田寛人】

<富山市議会の政務活動費不正問題の経過>

 ▼6月15日 市議会本会議が、議員報酬を月60万から70万円に増やす条例改正案を可決。傍聴席から異議を訴える怒声が続いた

 ▼8月19日 中川勇市議が虚偽報告をして政務活動費交付を受けたと、地元テレビ局が報道

 ▼同20日 中川市議が行方不明になったが、市役所の駐車場で発見された

 ▼同30日 中川市議が辞職届を提出

 ▼同31日 中川市議が記者会見。「遊ぶ金に使った」と政務活動費の流用を認め、謝罪した

 ▼9月26日 自民会派が、議員報酬引き上げを撤回する条例案を12月定例会に提出する方針を決める

 ▼10月3日 富山県警が中川、谷口寿一両氏に対する詐欺容疑での告発状を受理

 ◆23日投開票の富山県議補選 政務活動費の不正受給による県議3人(自民党1人、民進党2人)の辞職を受けて開催。富山市第1選挙区と高岡市選挙区で、自民党2人と社民党1人の新人3人が当選。両党が県議を1人ずつ増やした。投票率は31・11%と低迷。