米大統領選は8日(日本時間9日)、投開票され、共和党のドナルド・トランプ氏(70)が、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を接戦の末に破った。クリントン氏優勢の予想は、「隠れトランプ派」に蹴散らされた。泡沫(ほうまつ)候補の不動産王が、米国大統領へ。アメリカンドリームを劇的に体現したが、政治手腕は全く未知数だ。勝利宣言では暴言を封印、融和姿勢で「大人のトランプ」を演出したが、米国が出したトランプ大統領の結論に、世界は戦々恐々だ。

 「素晴らしい、大切な夜だった。2度と忘れないだろう」。トランプ氏は9日早朝(日本時間同日夜)、ツイッターを更新。地元ニューヨークでの勝利宣言から、数時間後。興奮さめやらぬ様子でつぶやいた。

 「暴言王」「異端児」とこき下ろされ、共和党の指名すら困難とされた男が、世界の大国、米国のトップに上り詰めた。「史上最大の番狂わせ」「私たちの予想が間違った」。クリントン氏優位を報じ続けた米メディアの自虐コメントが、衝撃の大きさを物語った。

 クリントン氏との接戦を制した後の勝利宣言。トランプ氏は紺スーツに白シャツ、赤いネクタイと、愛国心を意識した「星条旗カラー」で登場するなり、ガッツポーズをみせた。「USA」コールの中、持ち味の過激なトランプ節も、一時的に封印した。

 中傷し尽くしたクリントン氏を「長官」と敬称付きでねぎらい、「祝福の電話があった。彼女は懸命に戦った。国に仕えたことを感謝する」とたたえた。「(選挙戦で生じた)分断の傷をいやさないといけない。1つのアメリカの国民としてまとまろう。私はすべての国民の大統領になる」と、訴えた。

 「(メキシコからの移民は)麻薬や犯罪を持ち込む。彼らはレイプ犯」「スターなら、女たちはやらせてくれる」。過激な暴言の数々は、世界中の人の記憶に残る。それでも、米国はトランプ氏を選んだ。現状への不満、政界エリートのクリントン家に対する潜在的な怒りが、「大統領の品格」への不安を上回った。

 トランプ氏も選挙戦で、「Drain The Sludge」(へドロをかき出せ)「Make America Great Again」(偉大な米国を再び)と、国民をあおった。「隠れトランプ」の多さを証明するように、クリントン氏有利とされた州も次々とひっくり返した。

 共和党は結果的に8年ぶりの政権復帰。公職に就いたことがない大統領は、アイゼンハワー氏(53~61年)以来、約半世紀ぶりだ。第45代大統領として来年1月20日、就任式に臨む。

 「富の象徴」でもあるトランプタワーを次々と建設した、不動産王。勝利宣言でも「最強の米国経済をつくる。米国の国益が第一」と述べた。内向き批判に配慮してか、「すべての国と仲良く付き合い、関係を築く」と強調したが、米国では早くも反トランプのデモが発生。トランプ氏が指揮する米国への不安は、内外に広がる。

 「(任期満了の)8年後、皆さんは、本当に誇りに思うと言うだろう」。トランプ氏は自信を示したが、「史上最低の戦い」がもたらした衝撃の結末は、米国をどこに向かわせるのか。