8日(日本時間9日)の米大統領選でのトランプ氏勝利は、安倍晋三首相や日本政府にも、まさかの事態だった。トランプ氏は米国の国益第一を訴え、首相肝いりのTPPに反対を表明、選挙戦では在日米軍撤退の可能性にも言及した。現在の日米関係を激変させる「劇薬大統領」となる可能性もある。安倍政権のトランプ氏との人脈は乏しく、首相は近く、側近を米国に派遣して情報収集に当たらせる。

 「いっしょに仕事をするのを、楽しみにしています」。安倍首相は9日、トランプ氏の勝利に祝意を表し、協調関係に期待を示した。「日米両国は揺るぎない同盟関係にあり、絆をさらに強固なものにしたい。世界のさまざまな課題に協力して取り組みたい」。

 しかし首相の言葉とは裏腹に、政権の舞台裏では「考えもしなかった」(与党関係者)というトランプ氏勝利に、衝撃が広がった。

 日本政府が戦々恐々とするのは、トランプ氏の選挙戦での主張が、昨今の日米同盟を揺るがしかねない内容に踏み込んでいるためだ。政府関係者は「何を考えているかが分からない」と、真剣に不安を口にした。

 トランプ氏は選挙戦で、日本の核保有や在日米軍撤退に言及。日本側に、在日米軍駐留経費(思いやり予算)の負担増も求めた。また国益第一の観点で、オバマ政権下で日米など12カ国で合意した貿易協定、TPPにも強硬に反対。「就任初日に離脱」と明言した。安倍首相は今国会で、TPP承認案、関連法案成立を目指してきたが、野党は「日本が採決を急ぐのは、新大統領に失礼ではないか」(民進党の蓮舫代表)と反発。与党はきょう10日の衆院本会議で採決の方針だが、可決されても発効は厳しそうだ。TPPをめぐる与野党対立は、徒労に終わることになりそうだ。

 トランプ氏との人脈の乏しさも、不安の一因だ。首相は、河井克行首相補佐官らを来週訪米させ、関係者と会談するよう指示。今年9月の訪米時、大統領選勝利を想定してクリントン氏とは面会したが、トランプ氏とは会わなかった。ブレーンも含めて、人脈づくりも一からのスタートだ。

 政権内では、「不動産王」として揺るぎない地位を築いたトランプ氏に「有能なビジネスマン。過激発言は選挙向け。トップになれば現実的な対応をする」との期待もある。しかし現実的なだけに、米国の国益優先を掲げるトランプ大統領に、日本が振り回される展開もありそうだ。【中山知子】