金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)の事件を受け、テレビドラマや映画にもなった人気経済小説「ハゲタカ」シリーズの著者、真山仁氏(56)が24日、インタビューに応じ、事件の背景を分析した。注目すべきはゴーン容疑者の強欲さではなく、ルノーを介してフランス政府が仕掛けてきた“経済戦争”に対する、日本政府の対応の仕方だという。【聞き手・三須一紀】
-ゴーン容疑者が逮捕された今回の事件の本質は
真山氏(以下、敬称略) 今年2月、ゴーン氏のルノー会長任期を延長した際、日産をM&A(合併・買収)しろというミッションが動いていた。日産の内部告発は、それを止めるためだったと言われている。
-問題の本質はゴーン容疑者の所得隠しか
真山 単なる強欲なゴーン容疑者ばかりが注目されがちだが、その流れは危険だ。本質はルノー筆頭株主のフランス政府が介入していること。フランスは最近、民間企業の国有化をよくやる。国家がお墨付きを与えて企業経営し、世界でビジネスを成功させている。
-フランスの思惑は
真山 フランス哲学は欧州の中でも突出して変わっていて、自国が大切な国。食料自給率は100%を楽に超え、エネルギー自給率も100%超で欧州に原発の電気を輸出している。他国が鎖国してもフランスだけ、びくともしない力を持っている。今、自動車産業がガソリンから電気化するなど、産業革命級に変化しつつある中、技術力を自国で賄うために、日産・三菱自動車連合の技術が欲しいのだろう。
-なぜ日本政府は目立って動かないのか
真山 日産はおそらく経済産業省などに報告している。フランスに国がかりでのみ込まれそうだと。ところが日本はそれができない。東京電力、日本航空がそうだったように、民間に公的資金などの税金を入れると大ひんしゅくを買う。国は「自分たちで何とかしなさい」というスタンスで、その「何とか」が今回の告発だったのでは。
-日本政府がこのまま動かなかったら
真山 早めに手を打たないと本当に日仏の経済戦争になりかねない。(09、10年に北米であった)トヨタ車の大規模リコールの原因は、ほとんどが運転手の操作ミスだった。しかし、米国メディアの「車に問題あり」とする報道が先行する一方、日本政府は守ってくれなかった。今回もそうなれば、大量の税金を払って日本に本社を構える大企業が、日本から続々と離れる可能性があり、結果、日本の技術が流出する。このままの状態でフランスが株式公開買い付け(TOB)を仕掛けたら、あっという間に日産はルノーの傘下、つまり、フランスのものになるだろう。
-日本政府、日産はどうすれば良いか
真山 早く、フランス国の話なんだと広報すべきだ。日本国内に愛国心が出て来る。ルノー側の敵対的買収という見方に変わり、ホワイトナイト(敵対的買収を受ける側に友好的に買収または合併する会社)が出て来る可能性もある。日本政府の介入もしやすくなる。国民生活が揺るがない限り、企業に公的資金は入れられない。しかし、実態をPRすることで「助けてあげよう」という世論になれば、政府介入のやりようが出て来る。(つづく)
◆真山仁(まやま・じん)1962年(昭37)7月4日、大阪府生まれ。87年、同志社大法学部政治学科を卒業し、中部読売新聞(現読売新聞中部支社)入社。89年11月退社。91年からフリーライターとして活動し、04年、ハゲタカファンドを描いた「ハゲタカ」でデビュー。08年の「ベイジン」、11年の「コラプティオ」では原発や政治の問題に向き合い、14年の「売国」は、東京地検特捜部に迫った。ハゲタカシリーズ最新作「シンドローム」は、企業買収と、エネルギー産業、震災などのテーマが融合した集大成的作品。