戌(いぬ)年の18年、ペット業界の主役は秋田犬だった。平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)フィギュアスケート金メダルのアリーナ・ザギトワ(16=ロシア)に今年5月、雌犬「マサル」が贈られた効果もあり、国内の秋田犬関連施設への来客は倍増。海外での人気も定着した。一方で、大型犬のため飼育しづらいイメージが先行してか、国内の登録頭数は伸び悩む。秋田県大館市に本部を置く秋田犬保存会などは「飼育は決して難しくない。飼って魅力をより感じて欲しい」と願っている。
ザギトワとマサルの愛くるしい2ショットは、日本人の心を確かにとらえたようだ。マサルを贈った秋田犬保存会によると、大館市内にある、秋田犬や歴史資料などを展示している同保存会博物室の今年の来場者は12月現在で約2万人。16年6706人、17年1万155人で、年ごとに倍増の勢いだ。特に今年は日本人観光客の増加が目立つ。保存会は「ザギトワ選手の影響は間違いない。日本の犬の魅力を日本人に周知していただいた」と“逆輸入”効果に感謝する。ぬいぐるみなどのグッズも一時生産が追いつかない人気だった。
同時に「人気イコール、飼うではない。飼えないから見に来る、という方も多い」と複雑な心境も漏らす。保存会によると、16年の国内登録数は2628頭、17年は2704頭。今年は未発表だが、見通しは「少し減っている」(保存会関係者)。海外の人気に比べ、横ばいの感は否めない。減少のピークからは持ち直したものの、最多の頭数だった72年の4万6225頭には遠く及ばない。
都内の秋田犬ブリーダー石塚富美枝さんは「大きい、という秋田犬最大の特徴がネックになっている」と要因を挙げる。雄は体重40キロ、雌でも30キロに達する。都心などでは「小型犬のみ飼育可」とするマンションも多く、ハードルが高いイメージも先行。石塚さんも「注目はされるが、現場で実際に欲しいという声が大きく増えたという雰囲気ではない」と話す。
実際はどうか。保存会会員でもある石塚さんは「飼ってみるとそれほど大変ではない。今はうちも一戸建ての方だけにお譲りしているが、マンションでも飼えないことはない」と力説。「温和で、はしゃぎ続けたりもせず、静かに隣にいてくれる『大人の犬』です」と話した。ペット犬全般のケアをする社団法人ジャパンケネルクラブとも連携し、公認訓練士による無料の飼育環境調査や散歩指導などを行い、普及に尽力している。
ジレンマはある。石塚さんは「飼ってくれる人が増えたらいいとは思うが、飼うからには責任が伴います」。飼育放棄などが問題化する昨今、安易な普及策を取るわけにもいかない。保存会も「引き続き周知していく」としたが、土地も広く勉強会などを増やしている海外と比べ、劇的な打開策には行き着かない様子だ。「実際飼った人は『魅力を再確認した』という声が多い」(石塚さん)「大事に飼ってくれれば愛情は裏切らない」(保存会)と、最後は熱意のある飼い主が増えることが頼みとなる。
金足農の甲子園準優勝、男鹿のナマハゲのユネスコ無形文化遺産登録と続いた「秋田の年」の先陣を切った秋田犬。フィーバーから、保存の観点でもV字回復、となるか。【大井義明】
◆秋田犬 秋田県北部原産の日本犬で、1931年に国の天然記念物に。柴犬、北海道犬など日本の6犬種の中で唯一の大型犬。山岳狩猟犬「マタギ犬」として古くから飼育されていた。読み方は、秋田犬保存会では「あきたいぬ」としている。