任期満了に伴う横浜市長選は22日に投開票を迎える。各候補は21日、最後の訴えを行った。史上最多の8候補が乱立する激戦の争点は、カジノを含む、IR(統合型リゾート)誘致の賛否から、感染急拡大する新型コロナ対策に変動している。各陣営の調査や地元メディアの世論調査などでは元横浜市大教授の山中竹春氏(48)の優勢も伝えられ、菅義偉首相が推す前国家公安委員長の小此木八郎氏(56)が敗れれば、政局を大きく左右する。

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8候補乱立の戦いは、序盤のIR事業の誘致賛否から、新型コロナウイルスの感染急拡大によって、早急なコロナ対策に争点の主軸が移ってきた。終盤の情勢分析で、菅首相肝いりの小此木氏をリードしていると伝えられる山中氏は、JR桜木町駅前で「IRは即刻撤退」、「市民のみなさまをコロナウイルスの脅威から解放する」と訴えた。

2014年から横浜市立大学医学部教授に就任するなど、8候補の中で唯一、コロナ医療に精通した専門家だ。神奈川の新規感染者数は21日、2705人と9日連続で2000人超で、20日は過去最多2878人となるなど急速に悪化。「カジノよりコロナ対策」を訴える山中氏への追い風となっている。

対抗馬の小此木氏もIR反対を掲げるが、医療崩壊が迫る危機的状況に、急きょ、コロナ対策を前面に打ち出す戦術に出た。18日夕方から、市内のポスター掲示場、「強い覚悟で横浜市政へ」という文字が並んでいたポスターを「災害級のコロナ危機 前防災担当大臣が横浜を守る」という新ポスターに替えた。

序盤戦では、菅首相の全面支援を受けた小此木氏の優勢が伝えられたが、猛追する山中氏に期日前投票での出口調査などで逆転されたと伝えられ、コロナ対策に戦略を切り替えた。最終日も、応援に石破茂元幹事長が再度、駆けつけたがIR関連の話はなく、小此木氏も「迷ったら小此木八郎とお願いします」と投票を呼びかけた。

もし山中氏が勝利すれば、政局を直撃する。小此木氏敗退であれば、支持率急落で過去最低にあえぐ菅首相の求心力はさらに急降下する。26日には、自民党本部で総裁選日程が発表される。無投票が菅首相の再選シナリオだったが、ここに来て高市早苗元総務相、下村博文政調会長らが出馬に意欲を示すなど、「菅降ろし」が加速している。地元横浜で勝利して再選ムードに引き戻したい菅首相のもくろみは、かなうのか。ハマの戦いが政局を動かす。

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4選を目指す現職の林文子氏は最終日、9カ所で街頭演説を行い、「危機的な状況なんです、私」と声を張り上げた。候補者8人中、IR推進派は2人。残る6陣営からIRイコールカジノと責め立てられる選挙戦だった。国が推進するIRを横浜の経済再生の柱にしようと、自公両党とともに進めていたところ、いきなりはしごを外された格好だけに「全く理解できません。カジノは延べ床面積でいうと3%。残る97%は親子で楽しめるエリアなんです」と理解を訴えた。

 

〇…元長野県知事で作家の田中康夫氏(65=無所属)は「市民の希望者には無料でPCR検査を」と演説し、大きな拍手を浴びた。コロナ対策をめぐり「脱・飲食店イジメ」を掲げ「夜はダメって、コロナは朝寝坊なんですかね? 静かにビールやワインを飲んでも感染するんですか?」と疑問を投げかけ「対策徹底の店は市が認証して孤独のグルメ方式導入ですよ」と提案。1人やカップル、家族などを対象とした通常営業を認め、営業時間短縮や酒類提供停止緩和を約束した。政府コロナ分科会の尾身茂会長に対しても「コロコロ言っていることが変わるから『カメレオミ茂会長』ですよ」と批判した。

前神奈川県知事の松沢成文氏は、横浜駅前の最後の訴えで新型コロナ対策を筆頭に掲げた。「ワクチンの接種体制などを条例という形で横浜のルールにしていく。今より、もっともっとマシな横浜のコロナ対策を作っていく」などと訴え、衆員議員、神奈川県知事、参院議員を歴任した経験と手腕を強調しながら、支持を呼びかけた。反対のIR事業についても「いくら規制しても、ギャンブル依存症の方は出ます。個人破産する方が必ず出ます。家庭崩壊につながる家庭もたくさん出てしまう。これがバクチの宿命」と話した。

横浜市長選には元横浜市議の太田正孝氏(75)、水産仲卸会社社長の坪倉良和氏(70)、元衆院議員福田峰之氏(57)も立候補している。