従業員は全員が元ギャングだったことで批判を受けた過去もありますが、現在はLA市長や地元警察からも賞賛を受けています(ホームボーイ・ベーカリー提供)
従業員は全員が元ギャングだったことで批判を受けた過去もありますが、現在はLA市長や地元警察からも賞賛を受けています(ホームボーイ・ベーカリー提供)

働いている人が全員元ギャング

 “セカンドチャンス”と言う言葉があるアメリカでは、人生をやり直す機会を社会がサポートするシステムが日本よりも整っているように思います。今回のコラムでは、その代表とも言うべき、2つの有名ベーカリーを紹介します。

ホームボーイ・ベーカリー

 ロサンゼルスを拠点とするパン屋「Homeboy Bakery」で働いているのは全員が元ギャングです。しかも、窃盗や薬物使用のみならず、銃の不法販売や殺人など重犯罪で服役した人も少なくありません。LA近郊では年間1万2000もの子供たちがギャングとなり、罪を犯して刑務所に送られる状況にあると言われています。そうした若者に無償でチャンスを与えるために1992年にグレッグ・ボイル氏と言う神父により設立された社会復帰支援施設ホームウッド・インダストリーズには、年間1万人以上の元ギャングがやってくるそうです。ホームウッド・インダストリーズでは、そんな元ギャングのリハビリや職業訓練、カウンセリングなどを行っており、その一環として廃倉庫を利用したホームボーイ・ベーカリーなど7つのスモールビジネスを展開しています。

ホームボーイ・ベーカリーはパンの種類も豊富で、クッキーやペイストリーなども販売しており、市民に愛されるパン屋さんです
ホームボーイ・ベーカリーはパンの種類も豊富で、クッキーやペイストリーなども販売しており、市民に愛されるパン屋さんです

一生懸命パン焼きパン売る姿に温かい目

 「未来のための仕事」を合言葉に、更生して社会の一員として貢献できることをさせたいとの目的でスタートした施設で、職業訓練を受けた元ギャングたちがパンを焼き、店員として接客もするベーカリーは、あまり治安の良くないイ―スLA地区にあります。それでも防腐剤などを一切使用しないホームメイドのパンは、全国紙USA TODAYで2016年度の「LAのベスト10ベーカリー」にも選ばれるほどの人気で、店舗販売以外にもオンラインでの通信販売、LA近郊で開催されるファーマーズマーケットへの出店も行っています。ショップやマーケットでは、刺青が入ったいかついお兄ちゃんたちが一生懸命パンを売る姿を目にしますが、地元の人たちも彼らを温かく見守ってお店に足を運んでいるのです。

デイブズ・キラー・ブレッド

 もうひとつは、スーパーのベーカリーコーナーに行くと必ずと言っていいほど目にする「Daves's Killer Bread」というオレゴン発のオーガニックのパン。遺伝子組み換えの作物を一切使わないオーガニックの原材料にこだわったパンとして人気ですが、よくよく見るとパッケージにはパンとは不釣り合いのギターを片手に持つ長髪のムキムキした男性のイラストが描かれています。そのモデルになっている共同創業者のひとり、デイブさんには元薬物中毒の患者で15年間に渡って刑務所を出たり入ったりする生活を送った過去があります。長年に渡って薬物を絶つことができなかったデイブさんですが、4度目の出所後に心を入れ替えて兄が父から引き継いだベーカリーで修業をし、パン作りに取り組みます。そして2005年に自らの名前を冠にしたデイブズ・キラー・ブレッドをファーマーズマーケットで販売し、品質と味の良さが話題となって大成功を収めました。

デイブさんのイラストが描かれたカラフルなパッケージが特徴的なオーガニックパンは、LAの人たちにも人気です
デイブさんのイラストが描かれたカラフルなパッケージが特徴的なオーガニックパンは、LAの人たちにも人気です

何度失敗もやり直す機会与え

 会社が大きくなると、デイブさんは自らと同じように犯罪歴のある人たちを積極的に雇用し、前科のある人たちに社会復帰の場を提供し始めました。現在は兄の経営するNature Bakeと合併して300人を超える従業員を抱えていますが、およそ3分の1が前科持ちだと言います。職業支援のみならず、ホームレスのためのシェルターやNPO団体にパンを寄付したり、若者の就職や高校卒業資格取得を手助けする奨学金制度を設けるなどの社会活動にも積極的に取り組み、自らと同じように人生に何度も失敗した人たちにパン作りを通じてやり直す機会を与えているのです。

 どちらのベーカリーも、地元住民をはじめ地元の権力者たちも応援しており、社会全体でセカンドチャンスを与えようとサポートしている優良モデルケースとして知られ、社会問題に一石を投じるベーカリーとしてメディアにも度々登場しています。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。1枚目の写真はホームボーイ・ベーカリー提供)


◆前回のコラム「別物大麻ヘンプは超スーパーフード」(1月11日公開)の文中、「中国では漢方」の記述がありました。『漢方医学は、中国の漢の時代にまとめられた医学が、奈良時代ごろから日本に伝わり、日本独自の発展を遂げ、江戸時代に集大成された日本の伝統医学です。この日本の伝統医学である漢方医学で使用される薬が漢方薬です。「中国では医薬品の原料として」などの表現が正確であると考えます』と日本漢方生薬製剤協会からご指摘を受けました。「中国では漢方」の記述を削除しました。