指揮官・矢野燿大でなくても涙腺が緩んでしまう幕切れだ。原口文仁。本当に泣かせる男だ。歓喜の瞬間は虎番記者の記事で読んでもらうとして、こんな視点はどうだろう。

阪神のサヨナラ劇は5月29日巨人戦(甲子園)で高山俊が代打満塁本塁打を記録して以来。これも虎党を喜ばせたのだが、そのとき少し考えてしまった。あのときは延長12回1死満塁という場面だった。代打に出た高山の仕事は三塁走者をかえすこと。本塁打でなくとも安打、あるいは深いゴロでもよかった。

強いチームはそういうところにこだわる。阪神はどうか。後日、矢野に聞いてみた。矢野の答えはこんな感じだった。

「そうですか? 本塁打でいいじゃないですか。ゴロ打って、それで勝てばいいって、そんなんで面白いですか? ボクはそういう風には考えません」。捕手出身ながら打ち勝つ野球を理想にする矢野ならではの考えだった。

あの場面、高山は追い込まれていなかった。だからフルスイングでもよかったのだが状況に応じた打撃が分からないのは困る。そんな心配は無用とばかり、高山はしっかりしていた。

この日、2点を追う7回無死二、三塁の攻撃。2球で追い込まれた後の3球目、バットの先に当てた高山の打球は打点付きの遊ゴロとなった。これで1点差。その後は梅野隆太郎の活躍もあって同点となった。

こういう打撃は重要だ。ヘッドコーチ清水雅治も認めた。「あそこはブリブリ行って三振が一番ダメ。ベストは二ゴロで1死三塁をつくることだけど当てられたのは評価しますね」。

高山も分かっている。「あそこは何とか当てていって。二ゴロを打つのが100点だとは思いますけど、なんとか。(中前打の)9回は得点圏に走者を置いてまわってくると思っていたんですけど」。自分が決めたかったという雰囲気を出して話す姿が頼もしい。

この試合、阪神の攻撃は得点が入った4、7、そして9回を除くとあとはすべて3者凡退だった。少ない好機をきっちりモノにしたとも言える。胸をふるわせるような劇的結末もしっかりと、そして積極的に戦っているからこそやってくる。大きな勝利だ。

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