不屈の魂を語り継ぐ-。2215試合連続出場のプロ野球記録保持者で「鉄人」の愛称で親しまれ、4月に71歳で亡くなった元広島カープの衣笠祥雄さんの野球人生を描いた紙芝居「鉄人-衣笠祥雄物語」が、西日本豪雨の被災者を勇気づけている。市民団体「ひろしま紙芝居村」村長の阿部頼繁さん(65)は「チームの3連覇とともに、鉄人の姿は前を向く力になるはず」と力を込めた。広島は、球団史上初のリーグ3連覇へマジック2とした。

9月13日、広島市安芸区の矢野公民館で紙芝居「鉄人-衣笠祥雄物語」が上演された。西日本豪雨の被災地では初めての上演に、約60人が参加した。衣笠さんが豪快に三振するシーンでは、開演前に客席から選ばれた6人の「ファン役」がせりふを読み上げた。

「あれが衣笠か?」

「ええ体しとるじゃないか」

「打ちそうじゃのう」

「あいつのことはキャンプから見とるけど、何せ思い切りがええんじゃ」

「三振してもなんか気持ちがええ」

「これまでカープにはおらんタイプなんじゃ。カープを変えるのは、あがあなヤツじゃ!」

衣笠さんは75年に広島のセ・リーグ初優勝に貢献し「赤ヘル旋風」を巻き起こすなど黄金期を支えた。紙芝居では左肩に死球を受け、亀裂骨折しても翌日の試合に代打で出場して、フルスイングした場面も描かれる。不屈の闘志に「きーぬがさ」と声援を送る観客もいる。

広島市安芸区の矢野東地区は、土砂崩れで多数の住民が犠牲になった。土砂が自宅に流れ込み、道路は寸断された。「ひろしま紙芝居村」の阿部さんは、「まだ紙芝居を見る状況ではないのは分かっていたが、どうしても鉄人の姿を見てほしかった」と振り返った。

「鉄人-」は、阿部さんが衣笠さんの偉業を語り継ごうと紙芝居作家のいくまさ鉄平さんに依頼し、7月上旬に完成した。上演時間は約30分。来場者も巻き込んだ紙芝居上演を心がける。

「カープはわしらの体の一部なんじゃ」と阿部さん。「衣笠さんはカープにとって、特別な存在だった。広島の復興の象徴でもあった」。幾度のけがやスランプを乗り越えていく「鉄人物語」。これからも被災地で上演を続けていく。【松浦隆司】