いよいよ日本でも女子ツアーが開幕した。通算23勝目を挙げたアン・ソンジュを筆頭に、トップ10には4人の韓国人プロが入り、今年も変わらぬ強さを見せそうだ。

 そんな韓国勢に割って2位に入ったのが川岸史果だ。昨年プロテストに合格をしたばかりの22歳。最終日に76とスコアを崩したものの、この経験を糧に今シーズンの飛躍を期待したい。


●アマが3カ月かかる事を30分でできるプロ


 宮里藍の登場により女子ツアーの人気が高まり、その頃にゴルフを始めたジュニアが多くプロ入りを果たしている。新しい若手選手が次々に出てきて、ツアー全体のレベルアップにつながっている。

 私もプロやジュニアのティーチングをすることがあるが、その才能には驚かされる。

 例えば、ふつうはコントロールしにくいダウンスイング中のちょっとした動きを指摘したとき、アマチュアの場合その動きを取り入れ、良い球を打つのに2~3カ月ほどかかる。それをプロやジュニアは30分ほどで自分のものにしてしまうのだ。小さなころからクラブを振り続けてきたことで、自分の思った通りに体を動かす能力が非常に高く、感性が鋭い。まさに天才だ。


 なんでも柔軟に吸収する若いうちからゴルフを始めると、思い通りのボールを打つために自ら試行錯誤をして動きを習得していく。そういった中で感覚が磨かれていくため、先述したように「器用」なゴルファーができあがっていくのだ。


●天才がぶつかる壁は高い


 そういった器用なプレーヤーたちは、一般のアマチュアが習得にてこずる球の曲げ方やアプローチのバリエーションといった壁を難なく乗り越え、パープレーくらいまではとんとん拍子に上達する。

 しかし競技やプロの世界はそこからが勝負だ。トーナメントで「8打差」というと、「結構な差がついたな」という印象を受けるが、4日間競技だと1日2打、ハーフでわずか1打の差しかない。このわずかな差を埋めるために、今まで壁を感じてこなかった器用なプレーヤーたちは試行錯誤を始める。

 何かを変えなければ成長できないと感じ、グリップを変えてみよう、スタンスを変えてみようといったことをトライしてはみるが、これまで感覚的にスイングを作ってきたため、行き当たりばったりの対処法になりがちだ。うまくいかなかったから元に戻してみるものの、1度変えてしまったものは完全に元に戻すことはできず、自ら行ったちょっとしたスイングの調整が大きな壁となってキャリアに立ちはだかるのだ。

 「自分がどんなスイングをしていたのか分からなくなってしまったんです」

 ツアーで勝利したこともある選手が深刻なスランプになり、相談を受けたことがある。どんなに天才肌のプレーヤーでも、1度変えてしまったスイングは感性だけでは元に戻すことができないのだ。


1月ファーマーズ・インシュアランス・オープンの練習ラウンドでバンカーショットを放つ石川遼
1月ファーマーズ・インシュアランス・オープンの練習ラウンドでバンカーショットを放つ石川遼

●石川遼に感じた期待と不安


 1月にカリフォルニアで行われたキャリアビルダーチャレンジから3試合連続で石川遼のスイングを観察した。15歳の時に初めて出たレギュラーツアートーナメントでアマチュアとして優勝し、若くして日本ツアーの賞金王に上りつめた石川はまさに天才中の天才だ。PGAツアーの多くのコーチに彼の印象を聞くと、「きれいな癖のないスイング」という声が返ってくる。自分の体の使い方を分かっている、お手本のようなスイングという意味だ。

 そんな石川はフェースローテーションを抑えたスイング改造の真っただ中だった。球筋はこれまでのドローからフェードに変わり、スイングのメカニズムもビッグチェンジしていた。

 一年中試合があるツアー選手とはいえ、シーズン当初に持ち球を変えるという大きなスイング改造はかなりのリスクが伴う。トッププロでも練習場でできたことを試合で発揮するためには、行うべきスイング構築のプロセスがある。シーズン中にスイングを変えながらプレーができる石川の能力の高さとスイング構築のプランニングの危うさに期待と不安を感じた。


●天才を救った理論


 今やライダーカップのメンバーにも選ばれるなど、PGAツアーを代表する選手の1人であるマット・クーチャー。彼は学生時代に全米アマを制し、マスターズに出場し活躍するなどエリート街道を進んでいたが、その後伸び悩み一時は2部ツアーに転落したこともある。そんなクーチャーを救ったのが、クリス・オコネルという超理論派のコーチだ。

 「まず、クーチャーのアスリート要素を取り除くことから始めたんだ」

 オコネルはダラスにあるホームコースのドライビングレンジで遠い目をしながら語り始めた。オコネルはそれまで感覚を頼りにその時々の状況に反応してプレーしていたクーチャーに、再現性を重視した1プレーンスイングの導入を薦めた。オコネルはクーチャーの天才的な感覚を全て言語化し、スイングのメカニズムについて詳細に説明したという。体系立てられたスイング改造を行った結果、クーチャーは32歳の2010年のツアーで賞金王に輝き見事に復活を果たした。クーチャーが1人で試行錯誤していたら現在のようなPGAツアーでの活躍はできなかったかもしれない。オコネルに限らず、PGAツアーコーチは常に最高を求めて理論、分析力、指導方法を磨き、想像することができないほどの高次元の指導を行っている。

クーチャー(左)を見つめるオコネル氏
クーチャー(左)を見つめるオコネル氏

 現在ツアーで活躍するプロたちは、ほとんど皆、ジュニア時代から感覚を磨き上げてきた天才たちだ。しかし、トッププロの戦績やスイングを研究してみると才能だけでは必ずいつか壁にぶつかることがわかる。足の速いウサギには必ず昼寝をするタイミングが訪れるのだ。その眠りから覚め、壁を乗り越える武器になるのは知識と知恵だ。だからプロで活躍するにはそこに体系立ててスイング構築のできる参謀の存在が必要になる。

 私自身、ゴルフに真剣に取り組んだのは18歳になってからとかなり遅かった。自らの感覚だけで急成長するには遅すぎる年齢だ。さまざまな事を試し、多くの人に学び、回り道もたくさんした。ウサギとカメでいえば間違いなくカメだ。しかし、だからこそスイング構築を体系立てて学ぶ必要性を感じることができた。

 試行錯誤の中で出口が見えない人もいるかもしれない。その経験はいつか貴重な財産になる。あなたに目標があり、真理を追い求める気持ちがあれば道は開けるはずだ。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)