
2005年5月10日更新
第3国開催で“有”観客にしてよ
フリーアナウンサー:岩澤 昌美
北朝鮮の観客が暴徒化した問題で、国際サッカー連盟(FIFA)規律委員会は6月8日の平壌での北朝鮮戦を、第3国で無観客試合で行う処分を決定しました。そのニュースを聞いた時の感想は「ウッソー、あり得ない!」という感じでしょうか。処分そのものは過去の例からしても概ね妥当なものであり、選手や審判の安全が保証されない状況では第3国開催は当然と思います。ただ、北朝鮮の処分なのに、日本のサポーターまでが締め出されてしまうことに、何か釈然としないものを感じたのは私だけではないはずです。
ところが、あるサッカーライター氏に聞くと平然としたもので「北朝鮮でああいうことがあったから(処分は)当然でしょう。欧州などではよくある話ですよ。2つ(第3国で無観客)同時は厳しいけど。そんなことより、選手が平壌の人工芝で戦わなくて済むのはいいよね」という答が返ってきました。
また、あるサポーター氏はこんな感想でした。「第3国開催で北朝鮮の観客だけ締め出したら、本来、あちらのホームの試合が、こちらに有利になってしまう。それでバランスを取って無観客にしたんじゃないのかな。もっとも、スタジアムに入れなくても応援に行くから関係ない。スタジアムの外で携帯式のテレビを見ながら声援を送るんだ」。
FIFAの決定に怒り心頭だった私ですが、そんなサポーターのたくましさに、頼もしさを覚え、少しばかり落ち着きを取り戻した次第です。
スポーツの観戦スタイルは様々ですが、サッカーの場合は観戦者を「サポーター(supporter)」と呼ぶことに、その特殊性を伺い知ることができます。和訳すると「支持者、援助者、後ろ盾」といったところでしょうか。つまり単なる観戦ではなく、チームの後ろ盾となるということです。「選手とともに戦っている」という感覚で、それは日本代表のサポーターたちの共通の認識ではないでしょうか。
1993年秋。当時、地元・静岡の放送局に勤務していた私は休暇を取ってW杯アジア最終予選のうち、韓国戦とイラク戦の2試合の応援のため、カタールの首都ドーハに乗り込みました。出発前に会社のサッカーを知らないディレクターから「わざわざ負け試合を見にカタールまで行くなんて気が知れない」と、冷たく言われましたが、当時はまだサッカー、特にサポーターに対する認識はそのレベルだったのかもしれません。
また、あの頃は今のように中東は行きやすい国ではなかったし、チケットも入手が困難でした。治安を含めた情報も少なく、様々な危険を覚悟しなければいけない部分はありました。それでも、その時は「自分に何が起こってもいい。それよりも異国の地で必死に戦っている選手を応援したい」という気持ちでした。
予想通りというか、予想以上に怖い目にも遭いました。私が宿泊していたホテルには韓国のサポーターも多数宿泊していたので、一触即発の場面が何度かありました。彼らは韓国戦に勝って喜ぶ日本人を怒鳴りつけてきたり、廊下ですれ違う時に肩をぶつけて挑発してきました。挙句の果てには日本人の女性サポーターを韓国のサポーターが部屋に連れ去ってしまったのです。これには、さすがに日本のサポーターたちも事態の重大さに気付き、何人かで拉致された女性を助けに行きました。彼らは拉致に対する罪悪感がまるでないようで、本当に恐ろしく、そして怒りを感じました。
そういう劣悪な環境の中でも応援に行くサポーターの姿勢と、スタジアムでの声援が選手を励まし、疲れた選手の足を動かす原動力になると思っています。
あれから10年以上過ぎ、スタンドを見ても華やかになりました。若くて格好のいい選手が増えたせいか、黄色い声援も飛び交います。もちろん、それがいけないとは思っていません。入り口はどうあれ、応援するという目的が同じならば。
私たちサポーターが会場で応援して、その感動(時には悔しさ)を歴史の証人として、次の世代へ語り継いでいく。それがサッカー文化の発展につながると思っているからです。ですからFIFAのブラッター会長、今から「第3国開催で観客あり」にしてもらえません?
後に「ドーハの悲劇」と呼ばれるようになった1993年10月28日。イラク戦で引き分けて、日本はW杯出場の道が断たれました。スタンドにいた私はどうしようもないほど悔しく、でもこの気持ちは絶対に忘れてはいけない気がして、ゴール裏のスタンドから下にいた記者の方にピッチの芝と砂を一掴み取ってもらいました。
それを最後まで絶対に諦めないというお守りにして、今でも持ち歩いています。
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岩澤 昌美(いわさわ・まさみ)


静岡県藤枝市出身。静岡県警藤枝警察署交通課から、SBS静岡放送を経て94年からフリーという異色の経歴を持つ。現在はテレビやラジオで代表やJリーグのリポーターを務める。サッカー3級審判員の資格も持つ。ホームページアドレスはhttp://www.masaminha.com/index.html
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