ナチス支配下の1936年ベルリン五輪で人種の壁を越えて友情をはぐくんだ陸上男子4冠のジェシー・オーエンス(米国)と同走り幅跳び2位のルッツ・ロング(ドイツ)の子孫が、15日にベルリンで開幕する陸上の世界選手権で親交を深める。オーエンスの孫のマーリーンさんとロングの息子のカイ氏が、22日の男子走り幅跳び表彰式でプレゼンターを務める。

 男子100メートル、200メートルと400メートルリレーを制して大会のヒーローとなった黒人選手のオーエンスだが、走り幅跳びは2回連続でファウルし、予選落ちのピンチだった。するとロングが強い風を考慮して助走のスタート位置をずらすよう助言。これに従ったオーエンスは3回目の跳躍で辛くも決勝へ進んだ。

 決勝ではオーエンスが8メートル06を跳んで優勝し、ロングは2位。競技が終わると2人は腕を取り合って退場したという。ドイツ陸連のディーゲル名誉会長は「2人の選手の特別な出会いは、スポーツが平和、文化的な相互理解、人種間の尊敬を示した象徴的な出来事だった」と話す。

 ロングは第2次世界大戦中の43年に戦死し、オーエンスも80年に他界した。ドイツ民族の優位性を世界に示そうとしたナチス総統ヒトラーの思惑を打ち砕いた五輪スタジアムで、両雄の子孫が73年ぶりに並び立つ。(共同)