<全日本大学駅伝>◇7日◇熱田神宮-伊勢神宮(8区間106・8キロ)

 早大が大会新記録の5時間13分2秒で15年ぶり5度目の優勝を果たした。1区9位と出遅れたが、エース区間の2区でスーパールーキーの大迫傑(すぐる)、6区では一般入試組で3大駅伝初出場の猪俣英希(4年)が好走するなど、チームの底力を発揮した。渡辺康幸監督(37)の大学4年時以来の優勝で、10月の出雲駅伝に続いて2冠目。来年1月の箱根駅伝で史上3校目となる同一年度での3冠を目指す。昨年7位の駒大は2位、箱根連覇の東洋大は3位だった。

 雑草男の心臓が高鳴った。名門の看板を担うのはエリートだけではない。5区で16年ぶり区間新のルーキー志方からタスキを受けた猪俣。高校時代の実績は県大会まで。一般入試で入学し、4年生で初めて3大駅伝の舞台に立った。2位東洋大と10秒差。心に不安が走る。だがスタート前に競走部の磯監督が「これから生きていくための勉強になる」と声をかけられ「やるしかない」と開き直った。

 序盤はジリジリと東洋大・田中に迫られた。だが動じない。

 猪俣

 自分はスピードも華も目立った力もない。だけど泥臭さを磨いてきた。

 大学受験は部活を引退した11月から1日最大10時間の猛勉強で合格。就職試験も1月から始めたが、練習も両立させ、三菱商事の内定を勝ち取った。雑草組でも持ち前の集中力はエリートクラス。1月の箱根駅伝は沿道で距離表示を担当した男が、箱根区間賞の田中に競り勝ち、13秒差でエンジのタスキをつないだ。

 スタートでつまずいた。1区はエース矢沢が9位、首位東洋大と46秒差とまさかの出遅れ。その、いきなりの2冠危機をスーパールーキーが救った。エース区間の2区で1年生の大迫がつぶれれば、3冠は夢物語に終わっていた。だが積極的に仕掛け、2・8キロで3位集団をとらえると、終盤は給水にも目をくれずに駆け抜けた。37分55秒で区間3位だったが、「東洋の魔神」柏原を20秒上回り、トップと26秒差の2位に盛り返した。「柏原さんの調子が悪かった」と冷静だったが、渡辺監督は「100点です」と、たたえた。

 この2冠で走った4年生は1人だけ。だがチームを思い、努力する最上級生の背中を後輩たちは見ている。「猪俣さんは一般入試で入ってきて、僕らには考えられない努力をしている。学ぶべきところがある」(大迫)。残るは1冠。「箱根は自分の中のあこがれ。3冠を取って最後の競技人生を終わりたい」。18年ぶりの箱根駅伝優勝を猪俣も、そして早大も切望している。【広重竜太郎】