表彰式を終えた柔道男子60キロ級の広瀬誠は、スタンドの娘たちの首に銀メダルを掛けた。決勝戦は一本負け。悲願の金メダルこそ逃したが、39歳にして12年ぶりのメダル獲得。6歳、3歳、2歳の3人の娘は、父親に抱きついて喜んだ。広瀬の笑顔も満足そうだった。感動的な、ほほ笑ましい光景だった。

男子60キロ級決勝 表彰式を終えた広瀬誠は次女を抱いてピース(撮影・山崎安昭)
男子60キロ級決勝 表彰式を終えた広瀬誠は次女を抱いてピース(撮影・山崎安昭)

 35歳で臨んだ前回のロンドン大会でメダルを逃し、引退を決意したが、翌年復帰を決断する。今年5月の代表選考会後、広瀬はその理由をこう語っていた。「ロンドンの時、上の娘はまだ2歳で、何も覚えていなかった。だから目の見えない父が頑張っている姿を何としても見せたいと思ったんです」。その目的を4年かけて見事に結実させた。

 リオ・パラリンピックは8日から競技が始まった。2人がしっかりと組み合って開始する視覚障がい者による柔道は、差し手争いのほとんどない力勝負で実に見応えがあった。車いすバスケットボールでは日本は惜しくもトルコに初戦を落としたが、目まぐるしい車いす操作とシュートの精度は、健常者の競技に劣らぬ迫力があった。選手たちが障がい者であることを、試合終了まで忘れていた。

 8月に障がい者の姿を過度に感動的に取り上げるメディアの手法についての論争が話題になった。障がい者が出演するNHKのバラエティー番組「バリバラ」で、メディアが障がい者を感動をかき立てる手段として描くことを「感動ポルノ」という言葉で批判。視聴者から「共感する」などの大きな反響があった。

 パラリンピアンたちを見ていると、「感動ポルノ」がいかに陳腐であるかが分かる。演出のないアスリートたちの戦う姿は、視覚障害も下半身まひも忘れさせる圧倒的な力がある。「かわいそう」や「頑張って」の同情が入り込む余地がない。パラリンピックは「感動ポルノ」を超越した、障がい者の真の姿に感動できる。【五輪・パラリンピック準備委員 首藤正徳】